radio EDIST アシスタントパーソナリティの梅澤です。
もうお聴きになりましたよね、佐々木局長の膝枕力。
リスナーからのご感想もぞくぞくと届いていますので、ご紹介します。
「素晴らしい編集ですね。お見事すぎます」
―――学林局ケンジュマンさん
「日が暮れてから何度でも聴きたい…!」
―――編工研デザイナーHさん
「録音した講義を聞き直すのとは全く違うラジオコンテンツに終始感嘆しました」
―――遊刊エディスト編集部グレタ・ガルボさん
パーソナリティ深谷が、取材からナレーション、音声編集まで一挙に引き受けた快作。メディアを乗り換えることによる編集の可能性を体感いただけたのではないでしょうか。
全4回にわたりお届けしてきました「#1 局長佐々木千佳の膝枕力」は本日で最終回。
イシスのこれからを考えるシリーズ[ISIS for NEXT20]。
[後編]は、ズバリ「NEXT ISISってなんなのよ?」
該当部分は、19分30秒あたりから。最後まで一気にどうぞ。
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(聞き手:深谷もと佳)
#1 局長佐々木千佳の膝枕力 [後編]NEXT ISISの大黒柱
―――[中編]にて佐々木の教育論を引き出した深谷、いよいよ本丸に忍び寄る。本インタビューのターゲットは、イシスの「NEXT20」を眺望すること。その皮切りは「NEXT ISIS」というワードのコンパイルから始まった。
■「NEXT ISIS」は何を指す?
―――佐々木によると、校長から「これからの編集学校を再構築しなさい」というオーダーがあったという。そんななか、イシス15周年にあたり『インタースコア』の発刊やお題改編、感門団の組織化などさまざまなシナリオが動いていた。そこで、それらの多種のシナリオをぜんぶまとめて「NEXT ISIS」と呼ぼう。そう佐々木が言いはじめたという。
佐々木:それまでは学林局が企業サイドで、みなさんがその受講者という関係でした。でも編集学校全体を「みんなの場所」というコミュニティにしていきたかったんです。私はそのありかたを明確に意識して「NEXT」と言っていましたね。
深谷:このワードは佐々木局長発信だったんですね。
佐々木:そうですね。さまざまな動きを総称すれば、「NEXT ISIS」だよね、と。
―――「編集的自己」に続き、「NEXT ISIS」の出どころも明らかになった。ついに深谷は、いちばんのQを繰り出す。
■「NEW」でも「CHANGE」でもなく「NEXT」
深谷:「NEXT ISIS」という言葉によって、何かがPOSTになった感覚はあります?
佐々木:いや……、ぜんぶインヘリというか、まるごと含めて新しくなっているという感覚ですね。なにかを辞めたという感じはあまりないです。
―――意外な展開だった。深谷は食い下がる。
深谷:何かを捨てたわけではないんですね。
佐々木:そう。みなさんのコンセンサスとして、経験知的なものよりも、もっと方法化を大事にしようという志向が強くなってきたのを感じますが、かといって経験による勘、アブダクションをないがしろにしているわけでもない。
深谷:そうか、だから「NEXT」なんですね。「NEW」ではなくて。
佐々木:あ! そうですね。「CHANGE」でもないです。
深谷:「NEXT」という言葉のなかに、すでに「継承」や「伝承」というニュアンスが込められているわけですね。
―――ふたりは顔を上げた。CHANGE ISISでもなければ、NEW ISISでもない。
■お題改編は、本来を将来につなぐため
金の卵を探す旅
―――学衆や師範、師範代にとって身近な「NEXT ISIS」は、2016年37[守]でのお題改編だ。それまで15年以上受け継がれてきたお題が再編集された。[守]のカリキュラムでは「地と図の運動会」や「編集カラオケ八段錦」などが加わり、あらためて編集工学とはなにか考える契機になったはずである。お題改編の感触について佐々木は語る。
深谷:佐々木局長も改編チームに加わっておられたんですよね。どんな感じでご覧になっていましたか。
佐々木:「NEXT ISIS」に取り組むぞというときは、校長からオーダーがあったんです。「この編集学校がどんな構造をもっているか、みんなが言葉にしてモデル化して出してみせなさい」と。
それは言葉を替えていうと「本来を将来につなぐ」ということ。編集学校のさまざまな要素のなかで、どれが伸ばしたい種、大事にしたい金の卵なのか探していく作業でもありましたね。
深谷:その先を探しながら、前へ進んでいく。まさにアブダクティブ・アプローチですね。
佐々木:ほんとうにそうだと思いますね。編集学校の場合は、そのためのブーツストラップのタイミングが感門之盟なんですね。
■イシスがめざす3つのベクトル
編集しあえる「場」を目指して
―――靴ひもを締めあげると同時に、自分の身体も持ちあげる。お題改編は、イシスを長い目で見た場合のブーツストラッピングだったのだろう。短期的には、毎期ごとに行われる感門之盟がそれにあたると佐々木は語る。これから編集学校はどこへ向かうのか、いよいよNEXTのむかう方角が見えてきた。
佐々木:編集学校の「本来が将来になっていく」ためには、3つのベクトルがあると思うんです。
ひとつめは、エディティングキャラクターの突出。これこそ編集キャラクターという人が出てきてほしい。
ふたつめは、イシスモデルの横展開。編集学校の外でも、編集学校の人たちが活躍できるプロジェクトをつくりたいですね。
みっつめは、プラットフォームとしての編集学校。いまは、講座を終えた人たちが後ろ髪を引かれながらも居場所がないという状況がまだまだあって、それを解決していきたいんです。多読ジムのように、イシスをみなさんにとって学びあえる場にしていきたい。
毎回の感門之盟のときにこういう3つのベクトルが明らかになってきて、いまはこれを推進していく状況ですね。
深谷:編集キャラの突出、イシスモデルの広がり、学びの場としての編集学校ですか。
「場」というところに注目するのは、イシスっぽく感じますが。
佐々木:ええ、そうだと思います。「お互いに編集しあいたいよね」という関係性を保ちながら、居られる場がここにはある。講座の指導陣のみなさんと学林局のあいだも、おたがいに編集しあいっこしましょうと思っているじゃないですか。そういうことが大事だと思いますね。
―――普段から考えに考え抜いていたものが、うちに潜んでいたのだろう。真紅に燃えるマグマがとろりと滑り落ちていくように、佐々木は語り続ける。
佐々木:いま、状況がいろいろ変わってきていますよね。子どもは、学校に行かなくても「神授業」をいっぱいネットで見られる時代です。つまり、自分がどこで生きていきたいか、どこで学びたいかというコミュニティを選べる時代になってきていると思うんです。
編集学校としても今までは、「こういう場にいられますよ」ということは商売的にうたいにくい要素だったのですが、この「場」の重要性こそみんなで確認しあって大事にしあって、育てて次に運ぶのが大事じゃないかと思います。
「NEXT」という継承を考えたとき、技の継承はもちろん大事です。講座でいえばカリキュラムや指導力をともにゆるぎないものとして継承しなければならないのですが、もうひとつ継承しなければならないものがある。
深谷:それが「場」。
佐々木:「場」とか「文化」ですね。このまえ校長がお話されてたんです。「文化っていうのは、一人ひとりのなかにあるもので、文明っていうのはもっとはやいものなんだよ」と。これがまた、編集観としては面白いなあと思って。
■一人ひとりのなかにある
イシスの「文化」を受け継ぐために
佐々木:編集学校を語るとき、「この学校の文化」と言うと重たすぎて似合わないと感じていたんですが、この見方を聞いてフィットしたんです。
この20年って、編集学校立ち上げのときにハイチャージなものを松岡校長が与えて、それを私たちのなかでディスチャージしていく年月だったわけです。
深谷:そうですよね。
佐々木:そこでうまれたパターンや言葉が、編集学校のなかに「型」として残って、動いている。私たちが、それを持ち出し直すことによってハイチャージな状態が作られていくんだと思います。
みなさんのなかに、「これが編集学校かな」とか「これが三位一体ということか」「これがアブダクションか」みたいなことが手渡されている状態ですよね。それはどういうふうに花開くかわからないけれど、最初にハイチャージをかけた校長としては、これがみんなのなかでどうフィードバックされていくのか面白がってらっしゃる状況だと思うんです。
いままで私なんかは、編集学校がうまく運ぶように取り組んできましたが、これから先は、どこかでハイチャージに切り替える局面をつくるのが次なるお題かなと感じています。
―――「これからは、私たちがハイチャージを」
40分を予定していたインタビューは2時間をゆうに超えてお仕舞いとなった。どんな問いにあっても、たおやかな語り口はいっさい変えることなく、よどみなく高速応答を続けた佐々木。深谷は音声編集にあたって「波形を分節できないほど高速」と目を疑っていた。
柳腰の鉄人・佐々木、これからもその膝枕でイシスの妖しい夢を抱かせる。
Radio EDIST
[ISIS for NEXT20]
第1回「局長佐々木千佳の膝枕力」 [目次]
【ISIS fo NEXT20】
#2 林頭吉村堅樹の志向力 [目次]
企画・取材・音声:深谷もと佳
撮影:田中晶子
記事編集:梅澤奈央
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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