[ISIS for NEXT20#2][結]全編集は、志に向かえ―林頭吉村堅樹の志向力―

2021/01/06(水)13:00
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radio EDIST アシスタントパーソナリティの梅澤奈央です。

年末年始に全9回に分けてお送りしてきました[ISIS for NEXT20]、本企画も本日で結びとなります。

 

最後を飾るのは、林頭吉村堅樹が放った「NEXT ISIS 6つの編集ディレクション」。

「ISIS編集の国」があるならば、これはひとつの憲法です。

私たちは、なんのために編集をするのか。

目指すべき南がはどこなのか。

 

年初、あらためて、ご自身にとっての編集の意味を考えてみてはいかがでしょう。

では21分20秒ころから最後まで、そして第1回膝枕力第2回志向力あわせて一挙にお聴きください。

 

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[ISIS for NEXT20]#2 林頭吉村堅樹の志向力 [結]全編集は、志に向かえ


 

―――問い:「編集は〜」で始まる6つのフレーズを挙げよ。

 

編集学校の学衆であれば、『知の編集術』に記されたこの言葉が浮かぶだろう。

●編集は遊び/対話/不足から生まれる
●編集は照合/連想/冒険である

 

じつは、これ以外にもキーフレーズがあるのをご存知だろうか。

■NEXT ISIS 6つの編集ディレクション

 

1.編集は、「可能性を増やす」方向にむかう
2.編集は、「新しい価値・意味」をつくる
3.編集は、「人や場を生き生き」とさせる
4.編集は、「ものごとを前に」すすめる
5.編集は、与件からはじまる
6.編集は、よくよく練られた逸脱に向かう

 

―――これは、吉村が放ったイシスの憲法。深谷は、39[守]で初師範となった際、この6つの編集ディレクションに鮮烈な印象を受けたという。深谷はこのフレーズのいきさつを尋ねた。

 

 

■イシスには「軍団力」がない
 もし方向性を示すなら

 

吉村:松岡さんが「イシスには軍団力がない」と言っていて……。え、軍団力ですか?と思いましたよ。でも、僕なりに翻案すると、たしかにイシスはバラバラしている。正解はないと言っているし、のびのびと楽しければよいというムードもある。みんな好きなようにすればいい、という感じはありましたよね。

 

あと、学んだ編集術を使って「社会を編集する」というイメージでとらえている人も多いかなと思ったんです。でも、僕はそれは違うなと思う。社会のほうがずっと強いので、社会を編集しようとすると疲弊するだけになってしまう。それはもったいない。社会を変えるのではなくて、イシスを社会にするほうが早いと思うんです。

 

だから、なにかを達成しようとしたとき、松岡さんのいう「軍団化」ができればいいんじゃないかと思ったんですよ。プロフィールは多様に、でも一丸となるような「方向性」が必要なのだろうなと。


―――そう考えているさなかに、今福龍太(1085夜)の著作『わたしたちは難破者である』に触れた吉村。そこには「群島響和社会〈平行〉憲法」という詩があった。折しも、輪読座では聖徳太子を扱い「十七条憲法」も読み進めていた。そこにアフォーダンスされて考えが深まってゆく。

 

吉村:イシスがなにか掲げるとしたら、固定的なものではなくて、方向性だけが示されているゆるやかなものがいいだろうと思ってたんです。『知の編集術』に書かれている「編集は不足から生まれる」などのあのフレーズだけだと、突き詰めないと方向性は出てこない。

 

だから、いったん誰もが「そうだよな」と思えるような方向性を示したかったんです。できるだけ平易な言葉で、イシスで起きていることや松岡さんの考えをまとめたかった。

 

▲冒頭に宮沢賢治「サガレンと八月」を引きながら、こう始まる。
―――群島響和社会とは、自立自存の上に立って協働と共感と連帯の生活地平を世界に浸透させようとする『意志』のやわらかな共有(=放擲)をもとにした(全生命と物質の)共鳴体である――― 今福龍太『わたしたちは難破者である』(河出書房新社)

 


■イシスの「志」はなにか
 差し掛かっても、ブレないために

 

―――そうしてできあがったのが、イシスのカノン「6つの編集ディレクション」。これには前文として、以下の言葉も記されている。

 

すべてが「編集」ではある。
情報のIN-OUTのあいだにはいつも「編集」が動いている。
はじまりがあって、おわりがあれば、そのあいだには「編集」がある。
あらゆる動的なプロセスは「編集」が動いているといえる。

 

それはそのとおりなのだが、「編集」であればなんでもいいわけではないですよね?

 

イシス編集学校ではある方向性をもって「編集」をしていきたい。
BPTのTの方向性は共にしていきたい。Pはそれぞれが多様に描けばい。
その方向性を「志」という。

 

―――深谷はこの「志」に目をつけ、吉村の意図を引きだす。

 

吉村:白川静さん(987夜)ですね。

僕が編集学校に入ったとき、松岡さんが『白川静 漢字の世界観』(平凡社新書)を出されたタイミングで、白川さんの映像を見る機会も多かったんです。そのなかで、印象に残っていた言葉が「志あるを要する。恒あるを要す。識あるを要す」なんです。

 

「識あるを要す」は、ま、ちゃんと勉強しなければいけない。
「恒あるを要す」は、それがいつも(恒)じゃないとダメだと。
そして「志あるを要す」は、方向性。学ぶ方向性や成長していく方向性ですね。

この3つがあれば山さえ動く。これは自分のなかで響くものがあったわけです。


白川さんは、「志」を字解する際に「志は、足跡。足跡の向かう方向性」と言われていて、あぁそうだよなと思ったんです。

 

―――吉村は続ける。つねに状況は変わり、そのたびごとに正解は変わる。でも定まった「方向性」があれば、判断は自ずと決まる。松岡校長の言う「差し掛かり」のときに、編集が動きだすような方向性を示したかったという。

 

吉村:やっぱり、差し掛かったときにブレる。僕は、そういう苦い経験を編工研のなかでしてきたんです。つまり、正論に負けてきたんですね、何年間も。

 

深谷:その「正論」というのは、「大人の事情」的な。

 

吉村:そう。「会社なんだからこうするのが当たり前でしょ」とか「こういうルールで決めたんだから、なんでそれをやらないの」とか言われるんです。毎回そう言われると…

 

深谷:あらがってきたわけですか。

 

吉村:だんだんハッキリあらがうようにしてきたんですよ。だから、一般的な「世の中のルール」ではなくて、「編集の方向性」が必要なんじゃないかなと思ったんです。

 

深谷:私も初めて「6つの編集ディレクション」を拝見したとき、あぁそうかと腑に落ちる感覚もあったし、焚き付けてもらえる感じもありました。編集学校に入門したとき、学衆さんはそれぞれいろいろな思いや目標を抱えてくる。その編集冒険を後押ししてくれる可能性を強く感じました。

 

―――吉村は、イシス軍団が指すべき南にむかって軍配を振る。6つの編集ディレクションは、編集学校に対する指南だったのかもしれない。さらに編集的自由へむかうために、いまのイシスに「ないもの」はなにか。話はNEXT ISISのルル3条へと展開する。

 

 

■番稽古の仕組みをどう活かす

 NEXT ISISのプロトコル

 

―――NEXTを考えるにあたって、吉村は、NOWの編集学校プロトコルをルル3条で分解してみせる。いわく、EditCafeというツールのなかで、お題が出て、回答し、指南すること。編集稽古が4ヶ月で38番続き、始めと終わりがあること。そして、学衆が編集的な技術や能力を上げた状態で修了してもらいたいということ。そして、その学衆を中心に、師範代・師範・番匠・学匠・学林局・校長がサポートする。これが、イシスの基本プロトコルである。

 

吉村:このイシスプロトコルは、編集稽古のなかでは実現しているんですよ。でも、つぎに「NEXT ISISプロトコル」となった場合は、番稽古の外でやらなければならない。

つまり、たとえば遊刊エディストや他のプロジェクトの場合、始めと終わりがキッチリあるわけではないですよね。だからそれを設計しないといけない。

 

さらにいえば、編集学校のプログラムはプロセスを重視しているので、スキルが厳しく磨かれていくのを目指しているわけじゃないんですよ。そのあたりも、次どうするか考えたいと思っていますね。

 

深谷:松岡校長も、『インタースコア』(p.391)で書かれていますね。「芸を極めたい、何かが上手になりたいという気持ちはわかるけどね。それらを学びたいなら、他の場所があるでしょう。もし編集したいと思うなら、編集学校に来てほしい」と。
「編集」というところに、覚悟を決めているんでしょうね。


―――「イシスモデルの横展開」を目論む局長・佐々木千佳と同様、吉村からも「番稽古の外」というターゲットが飛び出した。講座の外であっても、イシスとはまったく違うコミュニケーションではなくイシス的礼節をもった「亜講座」としての動きができるはず。吉村が編集長を務めるこの遊刊エディストが、その実験の急先鋒かもしれない。

 

 

■中学2年の編集学校

 僕はアジールをつくりたい

 

―――イシスのNEXT20を眺望する本インタビュー。深谷は最後に、20年後の未来へ地を動かした。

 

深谷:たとえば20年後に編集工学を学ぶ人から見たら、このハタチのイシスはどんなふうに見えるでしょうか?

 

吉村:「あの頃はまだ未成熟だったなあ」「いろいろ試行錯誤してて大変でしたね」と見えるんじゃないかなあ(笑) というか、そうあって欲しい気もします。いまの状況がとても素晴らしいとは思ってないので。だから、もうすこし道筋をつけるところまでは頑張りたいですね。僕はそういう役回りなんだと思うんですよ。

 

―――林頭としてのターゲットを語ると同時に、吉村個人の思考のベースキャンプが明かされた。

 

吉村:佐々木さんは「子ども編集学校」をライフワークとしてなさっていますがが、僕は「中学2年からの編集学校」を考えてみたいんです。

インタビューの最初に、通ってた塾の話をしましたよね。その塾長は、全共闘世代なんですよ。京都桃山の物置小屋から塾を始めた変なオッサンで(笑) その人は、受験勉強をすごく頑張ろうというタイプではないんです。世の中のルールではない、自分のルールを作っている。そうやって生きてもいいんだと気づいたのは、僕の原点ですね。

 

じつは、僕の父親も相当変わった人だったんです。母親は「あんな人になっちゃダメよ」と言っていたんですが、中学2年生くらいのとき初めて気づいたんですよね。世間とのルールとは違っても、愉快に生きてる人たちがいるんだなって。

 

中学1年くらいまでは親の影響をすごく受けているけれど、中2くらいで初めて、間違えてもいいから自分だけで考えてみたいって思いますよね。その時期くらいに、「自分は新しいルールを作って、新しい場所も、新しい国も作れるんだ」って気づいたら、その子らにとってもすごく楽に生きられる。僕もあの塾のようなアジールが当時なかったら、相当キツかったと思う。最終的には、そういうアジールをつくりたいですね。

 

 

―――編集の国ISISには、方向性だけが示されている。その方向性はとりも直さず「志」なのだ。機に及び、差し掛かったとき、ブレずに足跡を運んで行くために、怯まずに編集冒険に挑んでいくために、そしてその道のりが多様であるために、私たちは「志」を胸に抱きインタースコアを重ねていきたい――。

 

深谷は、編集的アジールの日の出に向かってオープンカーのアクセルを踏む。「新しい国さえ作れる」と旗を振る吉村の背中は、人々を新たな出立へと駆り立てる。2040年イシス不惑の年に、遊民たちはどんなフラッグを立てるのか。その次なる行く末は、それぞれの足跡だけが知っている。

【おわり】

 


 

【ISIS fo NEXT20】

#2 林頭吉村堅樹の志向力 [目次]

[起]「僧侶で神父」の真相は

[承]風吹けば吉村はためくイシス空

[転]新規事業はドブネズミのごとく

[結]全編集は志に向かえ

 

 

 

#1 局長佐々木千佳の膝枕力 [目次]

[前編]名司会者は師範代に学ぶ

[中編]バイトあがりの教務主任

[後編]NEXT ISISの艶めく大黒柱

 

 

 

企画・取材・音声:深谷もと佳

撮影:田中晶子

記事:梅澤奈央


  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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