ハンノキの葉のうえで、総身を白い菌に侵されて命を終えていたキハダケンモンの幼虫。見なかったことにしてしまいたくなるこんな存在も、アングルを変えてレンズを向けてみると、メルヘン世界の住人に様変わりする。
スニーカーならエアマックス。NBAはエアジョーダン。ダイノジはエアギター。そしてイシスにはエアサックスと呼ばれる男がいる。
感門之盟で音楽を学ぶ卒門学衆としてフィーチャーされたものの、サックスの演奏が未熟だったため、校長から吹かないで持ってるだけにしてとディレクションされたことから、「エアサックス」の愛称がついた。49[破]学衆・ヤマネコでいく教室、加藤陽康。これは3度目の正直ならぬ3度目の突破にかける若者の4ヶ月に渡る編集稽古のドキュメントである。
大きな天狗に頬擦りするエアサックス加藤。しかし、この写真どこか変である。
道中安全。商売繁盛。
ご利益を願い、3日間続けて開催された下北沢天狗祭りにいそいそと出かけた加藤。やはり、どこまでも間が悪い男である。出かけたものの天狗祭りはすでに終わっており、工事現場に印刷された残骸のポスターに擦り寄りながら、突破とAT賞入選の願掛けをしてきたらしい。
天狗祭りが終わってしまっていたことへの落胆からか、目が若干うつろ気味なエアサックス加藤。ポスターの残骸に肌を寄せる様子は、願掛けをこえて怨念めいたものすら感じる。
ご利益はあったのか。物語編集術アリストテレス賞結果、テレス賞3席! 講評も届いた。
『亡霊壁画』原作:スター・ウォーズ
ワールドモデルを8世紀のイランに定め、枠物語の体裁で13世紀の語り手がアブーの冒険を語るという凝った構成の物語です。天狗のご託宣により、たまたま開いた『情報の歴史』から世界定めをするというチャレンジングな試みでしたが、歴象をモーラした取材力と、その情報を土台としたワールドモデルの構築はあっぱれでした。フォースを緑の目とライラの力に読み替えるなどツールの翻案も効いています。残念なのは、父殺しというタブーを犯しながら主人公の葛藤が弱い点です。過去の物語という枠組み上、語り手は壁画や古文書を元に物語る構成になっています。おのずからシーンの描写には限界がありました。ナレーターの設定には、再考の余地があったかもしれません。(講評=師範:戸田由香)
エアサックス加藤は『情報の歴史21』を開いて、偶然指をさした歴像で物語を書いた。過去の記事で指差しているのがそれである。偶然が選んだ年表の縦見出しは「747年アブー・ムスリム、黒旗を挙げて蜂起」。ウマイヤ朝を打倒し、アッバース運動を指揮したアブー・ムスリムを主人公に仕立てた。どこまでも自己にこだわり、前に進むことができない加藤に、編集天狗が差し出した奥義「偶然を必然にすることが編集」であった。
『情報の歴史21』より。この一つの歴象から3000字の物語がうまれるのなら、この画像に歴象だけでも数十の物語の可能性が秘められているといえるだろう。
かくしてエアサックス加藤は無事エントリーを果たした。締め切りギリギリまで暗黒面に落ちて、やる気のでなかった加藤は、最後はあらすじをベタばりし、なんとか3席に滑り込んだ。
その結果を受けての加藤の弁である。「よく3席ねじ込んでいただけたなあ、お情けなのかなあと。自分では選外でも仕方ないと思っていました。でも、『情報の歴史21』を使った方法を評価されたのかなと思っています。これからきっとこの方法は、50破以降に使われていくのではないでしょうか。テレスをとるにはは強いだろうなと自分で思っていました」。最初は謙虚でも、最後は自分が[破]の歴史を変えたとでも言わんばかりのよくわからない自説を唱えることも、エアサックス節である。
入選だけで喜んでいる場合ではない。エアサックス加藤はプランニングは3題、もちろんクロニクルも積み残している。残りは4日。果たして加藤は突破することができるのか。ハラハラしながら次回をお待ちいただきたい。
【エアサックス加藤の三度目の突破】バックナンバー
■【エアサックス加藤の三度目の突破11】天狗に願掛け、結果はいかに?
■【エアサックス加藤の三度目の突破10】窓からミュージアムが見える?
■【エアサックス加藤の三度目の突破09】ダース・カトウの再生はなったのか?
■【エアサックス加藤の三度目の突破08】嗚呼!エアサックス母子応援団
■【エアサックス加藤の三度目の突破07】波乗りエアサックスの慢心を諫める
■【エアサックス加藤の三度目の突破06】たくさんの天狗とたくさんのわたし
■【エアサックス加藤の三度目の突破05】歴史的快挙そして新たなる野望(本記事)
■【エアサックス加藤の三度目の突破04】守の型を使い尽くすべし
■【エアサックス加藤の三度目の突破03】心がわりの相手は君に決めた!
エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
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コメント
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2026-02-10
ハンノキの葉のうえで、総身を白い菌に侵されて命を終えていたキハダケンモンの幼虫。見なかったことにしてしまいたくなるこんな存在も、アングルを変えてレンズを向けてみると、メルヘン世界の住人に様変わりする。
2026-02-05
誰にでも必ず訪れる最期の日。
それが、どのような形で訪れるかはわからないが、一番ありえそうなパターンの一つが終末介護病棟での最期じゃないだろうか。沖田×華先生と言えば、自虐ネタのエッセイマンガでよく知られるが、物語作家としても超一流だった。深く死に向き合いたい方は、是非ご一読を。
(沖田×華『お別れホスピタル』)
2026-02-03
鋸鍬形、犀兜、鰹象虫、乳母玉虫、碁石蜆、姫蛇の目、漣雀、星枯葉、舞妓虎蛾、雛鯱、韋駄天茶立、鶏冠軍配、鶉亀虫。見立ては、得体の知れないものたちを、手近に引き寄せたり、風雅に遊ばせることの糸口にもなる。