ポンコツ山根ナビが魅せた「名人芸」とは【エディットツアーonlineレポ】

2021/03/09(火)22:58
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梅澤は頭を抱えていた。山根があまりにも前向きだったからだ。エディットツアー大阪&姫路の開催1時間前のことである。今回のメインナビゲーターは山根尚子(46[守]師範)。彼女は筋金入りのPC音痴なのだ。

 

39[守]にて山根の千里チャクラ教室で学んだ梅澤奈央は、彼女のアナログっぷりを熟知している。2020年2月、山根がリアル会場でのエディットツアーを主宰したときのこと。それは参加者、テーブルコーチあわせて総勢30名以上という稀にみる大規模な回だった。山根のなで肩に重責がのしかかる。高槻の会場へ向かう阪急電車のなか、梅澤は声をかけた。何があっても笑顔で周囲を照らす彼女。珍しく不安を吐露した。
「今日いちばん心配なのは、パワポの操作……」

 

それ以降、梅澤が山根のツアーに加わるときは、「ホワイトボード使いましょうよ」「Zoomなら、紙芝居のほうが見やすいかと」と提案を欠かさない。しかし、今回は気づいたときには山根がパワポを作りはじめていた。

 

 

当日、開始1時間のリハーサル。
「Zoomで画面共有するの、今日が初めてなんですよ〜!」
満面の笑みをたたえた山根の告白に、ディレクションに入った林頭・吉村堅樹とサポート役の内海太陽(43[破]師範代)、そして梅澤は一瞬息を止めた。

 

「よーし練習しなくっちゃ!」
意気込む山根に、内海は駆けよる。


「ページ送るときどうしたらいいんですか」「……矢印ボタンの上・下でいけます」「あれ、動かないんですけど」「えっと、ボタン押しました?」「あーそっか! あははははは」

静まりかえった会議室、廊下まであっけらかんとした笑い声がこだまする。

 

吉村はうわ言のように繰り返す。

「山根さん、パワポ操作は内海さんにお願いしたほうが」
責任感の強い山根。最後までじぶんがやると主張したが、ついには内海に委ねた。

 

◆ ◆ ◆

 

山根の語りは見事なものだった。ツアー終盤、ひとりの参加者がチャットで感想を寄せた。

 

編集とは、多分、『生きるを楽しむこと』

山根師範代のお話されるご様子を見ていれば、そのように思われてまいります

 

山根は、生きる空気清浄機だった。Zoomというデジタルな一座に現れた思いを、肺いっぱいまで吸いこみ、それを粒ぞろいの言葉に変えて吐きだしてみせる。彼女の身体を通ると参加者の言葉も、真夏の日差しに光る草木のような生命感を帯びるのだった。その言葉のシャワーを浴びると、魂が洗われる。

 

得意の茶々入れをも封印して終始見守った吉村は、「あっぱれ」と賛辞を贈った。
「山根さんは、パワポも送れないし、チャットも見れてない。でもそれがいいんです」

 

 

山根は振り返る。
「話しているとヨガクラスのときと、おなじ感覚になっちゃうんですよね」


山根の本業はヨガインストラクター。生徒に向き合うときは、自分の身体と言葉だけがツールだ。スライド資料などの後ろ盾はもたず、身ひとつで相手にまっすぐむかうのが流儀。脇目もふらず、100%のエネルギーを相手に注ぎこむ。

これほどの芸当をもちあわせるのだから、その力をあえて他へ逃がす必要はない。メインのナビに出来ないことがあれば、サポート役が立つだけだ。そのための仲間である。今回は山根が全身で演じ、内海が進行、梅澤がリテラルな補佐をした。

 

裏方に徹した内海は、見るべきスライドを山根がスルーしても、多少時間が延長しようともどっしり許容。なにより意識したのは、山根が自由に話せる場をつくることだったという。内海は飄々と話しだす。

「途中から、文楽みたいやなーと思ってました。むっちゃおもろかったですわ」

 

人形はひとりで踊らない。誰かの不足は、別の誰かが活躍するための空き地である。大阪のエディットツアーは、彼の地の芸能を体現するものであった。

 


 

■オンラインエディットツアーは、2021年4月上旬まで開催中。

 次回は

 ・3/20(土) 記憶する雪、編集する街/岩野範昭・神尾美由紀 [北海道] 

 ・3/20(土) 海街エディット/小川玲子・大塚宏・岩上百合子 [横浜・鎌倉]

 ・3/23(火) 八雲立つ 歌う出雲/景山和浩・増岡麻子・大武美和子 [島根]

 

 詳細はイシス編集学校特設ページでご覧ください。

 


  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで絶賛編集力向上中。今、最も旬なエディスト「うめこ」のこれからの活躍に刮目されたし。47[破]番記者、36[花]錬成師範。