『絵師ムネチカ』から目が離せない。天才は往々にして何かが欠けている。そしてそのこと自体がまた天才の天才性を引き立たせる。周囲の人々の鼻面を引き回し、人生を変えていく「天才少年」のデモーニッシュな魅力を容赦なく描いた怪作。
これまでにも「神童」もの(?)を数多く描いてきたさそうあきら先生だが、ご本人は極めて方法に自覚的な職人タイプ。長年、マンガ学科の教員として教鞭をとり、『マンガ脚本概論』などの技法書にも定評がある。
現代は“乱世”である
刻一刻と状況が変化するロシアのウクライナ侵攻。北京オリンピックを終えた中国では上海のロックダウンをはじめ、習近平による締めつけが強まり、フィリピンでは権威主義的な統治をしたマルコスの長男の大統領当選が決まった。
海を挟んだ最近の日本でも物価上昇やエネルギー問題があらわになり、お笑いに一途だったダチョウ倶楽部メンバーの突然の自害の報せに、今日も驚きと追悼の声がニュース欄に残響している。
「計り知れないことが起こっている」
2022年5月14日、37[花]入伝式で松岡校長はこう口火を切った。このような訳のわからなさがあふれる現在の状況は、今に始まったことではなく、世界して繰り返されてきた「乱世」の時代も同様であったという。
「乱世」とは、古代ローマ帝国やアッカド帝国のような巨大な帝国が解体した後、拮抗していた大きな仕組みがバラバラと崩壊した後の世を指す。乱世の時代では思いもよらぬ再編集が行われてきた。20世紀の日韓併合ののちに、それまで国内で蔑視されていたハングルが浮上したこともその一例である。こうした乱世は例えばファッションでも起こっていて、シャネルやディオールという高級ブランドの帝国が解体したのちに、H&Mやユニクロが登場した。乱世は決して遠い過去の出来事ではないのである。
現代の乱世を象徴するロシアのウクライナ侵攻。松岡校長は2022年4月末に千夜千冊で1797夜『ユーラシアニズム』を、翌週には『リモノフ』を立てつづけに公開し、真正面から「乱世の今」に切り込みつづけている。
乱世を編集した世阿弥
時代は違えど同じような乱世を生き、イシスの花伝所に縁深い人物がいる。その人こそ「世阿弥」である。世阿弥が生きたのは、鎌倉や南北朝を経て室町時代に入った頃。戦乱が絶えず、政治の仕組みも次々に移り変わる世であった。この乱世において、世阿弥が能で徹底したことがあった。それこそが「稽古」である。
そもそも能とは、「能(よ)く」と読むように、よりよく、より面白くスキルアップしていくものであると松岡校長はいう。世阿弥はそれを「稽古=古(いにし)えを稽(かんが)えること」、つまり型を使うことによって、ありとあらゆる乱世の未知や多様性を編集することができると考えた。
松岡校長は、先日、東京オリンピック2020開会式で2分間の舞を踊った森山未來さんと対談をしたという。イスラエルのダンスカンパニーの経験もある森山さんは、今日の多様性の中で踊り切るためには「型」がないと自分が摩滅すると思い至り、その型を『日本という方法』に見出したと語る。方法日本によって古を稽え、表現をつづけるダンサー森山を、松岡校長も絶賛している。
さしかかることで咲く「時分の花」へ
能では、目指すものの一つに「時分の花」がある。この「時分の花」はさしかかる時に花開いていく。それは本を手に取るときかもしれないし、誰かと接しようとする時かもしれない。
花伝所のメインとなる稽古期間は5週間とごく限られているが、その期間の中で入伝生は花伝式目や型をつうじて次々と「さしかかり」に向かっていく。今日の入伝式でも、『インタースコア』の一節を重ねて自己紹介をする「年来稽古条々」、「リバース・エンジニアリング」「エディティング・モデルの交換」「イメージメントとマネージメント」について師範陣が編集工学的に深掘りする「問答条々」、入伝生必読の千夜千冊10夜を共読した上で、道場オリジナルの五か条を高速で編み上げる「物学条々」など、さまざまな「さしかかり」を起こす仕立てとなっている。次第の最後には、校長松岡自らが型や方法の語り明かすとっておきの「別紙口傳」が待っている。
メッセージの最後に、松岡校長はZoomで参加する入伝生に向かって「ここでは能舞台が起こっている。そこに臨席するようなつもりで入伝式に関わってほしい」と締めくくった。
「歴史をみるとき、僕は大きく支配したものに注目するのではなくて、それが解体したときに何が生まれ、その何が面白いのかにいつも関心をもってきた」という松岡校長が入伝式の装いに選んだのは、「フラジャイル」の意匠があしらわれ左右非対称でレイヤードスタイルのYohji Yamamoto。「今日のファッションは、かつて帝国のように君臨していたパリコレにもはや頼れなくなっている。デザイナーはデザイナーで、大きな”乱世”というものを常に感じているのだろうと思います」(松岡)
【第37期[ISIS花伝所]編集コーチ養成コース 指導陣】
校長:松岡正剛
所長:田中晶子
花目付:深谷もと佳、林朝恵
花伝師範:中村麻人、美濃越香織、岩野範昭、吉井優子、岡本悟
錬成師範:村井宏志、蒔田俊介、神尾美由紀、牛山惠子、武田英裕、阿久津健、平野しのぶ、内海太陽、佐藤健太郎、堀田幸義
「方法日本」を掲げた37[花]。本楼では師範陣が持ち寄った多様な「花伝扇」が花を咲かせていた。
【第37期[ISIS花伝所]関連記事】
37[花]プレワーク 編集棟梁は 千夜を多読し ノミを振る[10の千夜]
上杉公志
編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。
【第90回感門之盟】「読奏エディストリート」Day2 公開記事総覧
第90回感門之盟「読奏エディストリート」Day2 (2026年3月22日)が終了した。当日に公開された関連記事の総覧をお送りする。 黒衣の5人の見つめるその先【90感門】 文:角山祥道 【90 […]
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イシス編集学校でお馴染みの先達文庫。今までで1期から1,900以上の先達文庫が師範代へ贈られてきた。 56[守]師範代に贈られた先達文庫は計18冊。師範代のそれぞれのらしさが込められ、これからの編集道を照ら […]
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2026-03-19
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2026-03-17
目玉入道、参上。
体を膨らませ、偽りの目玉(眼状紋)を誇張して懸命に身を守ろうとしているのは、カイコの原種とされるクワコの幼虫。クワコの繭から取れるシルクは、小石丸のそれに似て細く、肌触りがよいらしい。
2026-03-10
平和に飛び交うモンシロチョウも、地球史スケールでは、ほんの少し前に日本にやって来たばかりのパイオニアらしい。押さえきれない衝動に駆り立てられて彼方に旅立つ人たちの原型は、海をわたる蝶なのかもしれない。