〆切は、万人にひとしく襲いかかる。
「もう二度と〆切には追われたくないと考えている」池波正太郎はうめいた。守れぬ約束をまえに苦悩するのは、文豪もイシス学衆も変わらない。
恋焦がれて入門した編集学校、それでも稽古に気乗りしないときはある。そんなときどうすればよいのだろうか。対策はふたつだ。1754夜『〆切本』を読み、抄録されている59の文士たちの失踪の手管をまなぶ。あるいは、47[守]受講中の近大学衆20名による疾走メソッドをまねぶことだ。
近畿大学の図書館「ビブリオシアター」を校長松岡正剛が手がけたことから、イシスと近大は縁が深い。近大からは42[守]以来毎期団体受講を受け入れ、彼らは教室や勧学会のほか、近大生たちだけが集められた秘密ラウンジにも登録されている。期に数回は、オンラインでの交流会も行われる。そこでは最近、稽古のコツが語られていた。集まったメソッドを、番匠であり近大番の景山”30点”和浩がラベリング・トラベリングしてみせた。大きく「〆切型」「閃き型」「共読型」など6つの方法に分けられた。学衆コメントを要約編集してお届けする。
■〆切型A:出題日に全力投球
●Googleカレンダーに出題日をリマインダー設定して、当日に完了させます。こうすると他の人の回答を楽しんで見られる余裕ができるんですよね(縞々BPT教室N)
●宿題はすぐ消費したいタイプ。お題が出る日は手帳に丸をつけて、その日のうちに回答するよう心がけています(一客一亭教室Y)
〆切を追いかけ、追い越すスーパーマン。
■〆切型B:〆切に追われてパワーアップ
●コツコツやるのが苦手、そして忙しいのが好き。お題の内容だけは見ておいて、提出日ギリギリに時間に追われながら出すようにしています(縞々BPT教室D)
●お題に取り組みはじめるのは、〆切数時間前。そうすると集中できるし、回答に至るまでの考えが鮮明になり、さまざまな気づきが得られます。(オブザぶとん教室K)
追うのが無理なら、追われればいいじゃない。
■〆切型C:一歩踏み出して、勢いづける
●だいたいいつも眠たいのですが、やり始めれば集中できる。とりあえず机に向かい、Wordファイルを開き、回答フォーマットをコピーしてしまって、後戻りできなくします(「象」徴ドミトリー教室I)
●私は大学の授業を受けたり、課題をやる流れでそのまま回答しています。お題への回答のほうが楽しくてこっちだけ済ませて大学の課題が置いてけぼりになることも多々あります(笑)(ジャイキリ魔球教室H)
流れにのればこっちのもの。
■閃き型A:リフレッシュしてひらめきゲット
●アイデアが底をついたときは、周りにあるものを眺めたり、お気に入りの曲を流してみたりします。気分転換になってパッと新しいひらめきに繋がったりします◎(谷中エッチング教室Y)
●一度頭をリセットするために、イラストを描いたり、読書やアニメ作品の視聴をしたりと気分転換してから取り組んでいます。気分転換がなければ思いつかなかったということがよくあります(ピアソラよろしく教室T)
●アイデアが詰まったときは、今までの考え方を、他のものにあてはめるようにしていました(グッチ金輪際教室H)
あえて別の情報を入れる。そこに思わぬ対角線が。
■閃き型B:音楽聴いてスイッチオン
●『ヤシマ作戦』ループ再生は、私もまったく同じことをやっていて笑いました。私は音楽を聞きながら考えごとをするのは苦手なのですが、勉強の導入として使うと士気が高まります(カンテ・ホンド教室K)
●ロック調の音楽を聴きながらお題を解くことで、自分を奮い立たせる(ジャイキリ魔球教室S)
●まだみなさんのようにルーティンを見いだせていませんが、アプリで雨音を聴きながらよく勉強していました。これは自分的に革命的発見でした!(アイドル・ママ教室N)
聴覚を刺激して、自然と気分をアゲていく。
以上5つが、〆切型、閃き型の対策法。
近大学衆の疾走法を聞き出したのは、近大番長 衣笠純子(学林局)。衣笠は、ここぞというときにはアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の「ヤシマ作戦」のBGMを流し、自身を戦闘的モードにもちこむという。29[花]時代から仲間に勧めるお気に入りのメソッドらしい。
そして、イシス編集学校ならではの方法も挙げられた。
「教室の力を借りる」という共読型である。
■共読型:教室の力でモチベーションアップ
●他の人の回答を読むことです。回答を読むことで、自分へのプレッシャーと新しい発見があって、『回答しないとなー』が『回答しとくか』になります(柄々八犬伝教室W)
●他の人の回答を見ることで、自分もやらなければ!という気持ちに火をつけモチベーションをあげています(極性アンバルドル教室I)
近々ワンダー教室の学衆Yは、イシスという方法の真髄をとらえていた。
師範代と対話をすることを心掛けていますね。質問や疑問を投げかけたり、指南に対して思ったことをつぶやいたり、逆に師範代の頭の中を探ろうとしたり。
編集力は対話だとお聞きしました。対話することでお題ごとに会話が途切れることなく次の返信がさらに楽しみになります。
情報はひとりではいられない。これが編集学校に通底する根本原理だ。教室にいるのも、あなたひとりではない。その証拠がこの声だ。
「一人で寂しいなあと感じたときにお稽古をすると、みなさんと繋がっている感覚が味わえるので、オススメです」(ジャイキリ魔球教室H)
師範代は、あなたの言葉をかならず拾う。それどころか、言葉にならないため息にさえ聞き耳を立てる。行き詰まりを感じたら、どうかそのため息だけでも教室に発してほしい。そうすれば師範代がかならず穴からひきあげる。
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
【イシスの推しメン/18人目】どうすれば、子どもは本が好きになる? 理学療法士・得原藍が語る、イシス編集学校の重要性とは
ゆとり教育が始まって20年、文科省の目論見は外れた。学力低下が囁かれ、公教育への不信感が募る。どうすれば、自分のチカラで考えて生きることのできる子どもを育てることができるのだろうか。 イシス編集学校の教育スタイルは「対話 […]
【イシスの推しメンSP/17人目】一級建築士・山田細香は、なぜ震災を機にイシス編集学校を選んだのか
人生に、転機はふいに訪れる。道端で出会った風景に心動かされ、たまたま見たテレビの言葉に救われて、そして突然起きた地震になすすべもなく翻弄される。 遊刊エディストの人気連載「イシスの推しメン」17人目は、一級建築士の山田細 […]
【ARCHIVE】人気連載「イシスの推しメン」をまとめ読み!(18人目まで)
イシス編集学校の魅力は「人」にある。校長・松岡正剛がインターネットの片隅に立ち上げたイシス編集学校は、今年で開校23年目。卒業生はのべ3万人、師範代認定者数は580名を超えた。 遊刊エディストの人気企画「イシスの推しメン […]
【イシスの推しメン/16人目】不動産投資と編集術の意外な関係?! 世界と渡りあうアセットマネージャー平野しのぶは、なぜ「日本語」にこだわるのか
世界は急速にボーダーレス化している。英語を共通語に、丁々発止と渡り合う日本人も少なくない。世界で働く彼らにとって、日本人であることの強みはどこに見出しているのだろうか。英語を母語にもたないことは不幸なのだろうか。 イシス […]
【子育てママ・パパ必見】おやこ向けの無料編集力チェック、始まりました【期間限定】
あのころは無邪気に信じていたでしょう、「おとなのほうが、すごい」と。しかし、おとなになった私たちは、それが真実でなかったことに気づきます。ユニークな言葉選びや、豊かな想像力、意表をつく色づかい。こどもの小さなアタマには、 […]