【Playlist】眼力・筆力の5選:井ノ上シーザー

2022/01/25(火)17:30
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エディストライター陣が招集されたのは、2019年7月のことでした。会議の冒頭で、松岡校長は「記者然とした目」と「各自が独特のスタイルを発揮すること」を求めました。『遊刊エディスト』はイシスの機関紙である上に、ライターのエディティング・スタイルの鍛錬の場でもあります。その場で松岡校長は各ライターへ文章指南を提供しました。今にして思うと、とてつもなく贅沢な編集稽古です。

 

<校長メモより>

 

松岡ディレクションの言葉を噛みしめながら、筆圧の高い5名の記事を紹介します。

 

「砂漠のらくだは、マイクをケチる 45[守]伝習座リハ」 

“決め”た編集方針と、“キメ”たタイトルで振り切りました。「白川らくだのみみっちさ」という着眼点が優れていますし、ぬぼーとした写真の表情も失笑を誘います。タイトルと写真と本文で、粋に出来事を切り取るところに、DUST記事の醍醐味があります。その本質は“粋”な“思い切った抑制”で、梅澤奈央の技使いは名手の域に達しています。

 

「イシス女神の帯結び 感門之盟」

「こっくりとした」という語感がたおやかで魅せます。紋切り型に陥らない丸洋子の、短くとも情景と情感が伝わる逸品です。言葉の紡ぎ方が丁寧なので、書き手の欺瞞を全く感じません。静謐を湛える文章に対し、雄弁な帯の柄の「女神イシス」の写真にも注目ください。

 

「土壇場の新師範代!奴が[破]に帰ってきた!」

登板するスター師範を、「筋・骨・気・肉」で“奴”と言い放ちました。誠意は全くありませんが、さすがの力技。富岡鉄斎の書を思わせる、太さと速度感の書きっぷりの吉村堅樹です。ふくよ師範を知らない人にも、その魅力を存分に伝えて読ませます。イシス学林局の権謀術数ぶりも暴かれてます。

 

「もしも師範が野球チームをつくったら」

温厚な景山和浩には、吉村のようなアクはありませんが、編集ベテランの鋭い観察眼は「野球チーム見立て」で生かされました。なにかを伝える際に、別のなにかを介すと、景山は絶妙にうまい書き手になります。今後も、より方法に徹した記事を楽しみにしています。

 

「【三冊筋プレス】寄り坐となって海を歩け」

当初、林愛は「書き手としての自意識」を持てあますところがあり、その文章は、無駄に冗長に見えました。ですが、この三冊筋プレスあたりから、腹を据えて遠慮なく言葉の刃を運ぶような書き方となりました。熟練の外科医が腹を躊躇なく裂くメス捌きを思わせます。スタイルを得た書き手の誕生に、目を細めました。
なぜ、わたしはこんなに偉そうなのか。林のポテンシャルを予感してエディストライター陣に招き入れたのは、わたし・井ノ上シーザーだからです。

 

 

編集の悦びとは、才能がひらく瞬間に立ち会うことにあります。学衆は師範代を通じて、師範代は師範を通じて、ホントとツモリを往来し、“たくさんのわたし”を発見し、別様の可能性を見出します。すると、より世界が発見的に見えてきます。イシスは、そのような契機を差し出す母体です。
イシス師範代に師範のみなさん。目利き力を磨き、おおいに発揮してください。眼をぐっと開いて、明日のエディストを発掘するつもりで。

  • 井ノ上シーザー

    編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。

コメント

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山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025