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【冊師が聞く05】 師範と読衆、仕事と編集。ポリロールの往来がわたしの読み書きを自由にする(増岡麻子)
- 2021/06/28(月)09:00
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多読ジムの名物冊師が”気になる読衆”にずばりインタビューする新企画「冊師が聞く」。
第5回のインタビュアーは増岡麻子冊師(スタジオこんれん)。Season06は無事に閉幕。最後の1か月はエディストでもおなじみの「三冊筋プレス」に取り組みました。「三冊筋プレス」の魅力とは? 多読ジムとはどんな講座なのか?
◆小路千広さん(スタジオこんれん)◆
読衆プロフィール:香川県出身、兵庫県神戸市在住。職業はフリーランスのライター。28守破、[遊]物語6綴、22花、11離、[遊]風韻16座を受講。35守破師範代、42~44破師範、10・11綴物語師範代・13綴師範、46破評匠など途切れず編集学校のロールを受け持つなかで、多読ジムはSeason02から継続受講し、「三冊筋プレス」を毎期書き上げる。詞と編集術への探求心に満ち満ちたライター&エディター。
増岡:小路さんはSeason02からの参加、そして破や物語の師範、破の評匠をされながらの読衆ロールを続けられていますね。
ご多忙ななかでの継続の秘訣なども伺いたいです。
まず、受講のきっかけを教えてください。
小路:Season01を受講されていた原田淳子学匠や相部礼子番匠(43期破)から「共読がすごく面白いし気軽にできるからやってみては」と
勧められたのがきっかけです。
それに、木村久美子月匠が「冊師からコメントをもらえるのがうれしい」と学衆さんのような顔で楽しそうに話していたのを目の当たりにして、私もやってみたいなと。
他の編集学校のコースとは異なり、自主稽古で全部のお題回答が必要ではないと聞いて「それなら自分にもできそう」と思ったのもきっかけになりました。もともと本は好きなのですが、読むのが遅いし、読みが浅くて、読みっぱなし。
校長の読書の方法を学びという気持ちもありました。
増岡:木村月匠が読衆として参加しているのが、多読ジムの目玉のひとつですよね。
初参加からSeason06まできて継続受講で変化してきたこと、手ごたえはどんなところでしょうか?
小路:本を読む速度や時間を意識しながら読むようになりました。
以前はだらだらと読んでいたのが、時間を区切って読むといった具合です。
書くことについては、何度か「三冊筋プレス」を経験して書けなくても書く、という構えのようなものができました。
増岡:読むだけでなく書く構えまでも変化が。読筋がついてきていますね!
毎期、「千夜千冊エディション」を取り上げる「エディション読み」についてはいかがですか?
小路:「エディション読み」を通して、本の構造や編集意図を考えて読むことを知りました。マーキングは試行錯誤していますが、以前は遠慮がちに線を引いていたのが、いまでは躊躇なく書き込んでいます。
赤のフリクションペンを持たないと読書ができないほど(笑)。
本の余白の所に感想や疑問点をメモするなど、備忘録の感覚でノーティングしています。
そしてSeasonごと、編集的先達に必ず一人は出会います。
前回(Season05)は古典に通じた歌人・藤原定家(千夜千冊エディション『面影日本―定家明月記私抄』堀田善衛)、今回(Season06)は、情報の散らかし方と選びとり方を心得た資生堂の福原義春さんです。(千夜千冊エディション『感ビジネスー猫と小石とディアギレフ』)
増岡:松岡校長の編集意図を探り、本をノートのように使ったり、様々な編集的先達とも巡り会うことができる。
積読を解消できない、とお悩みの人にも、声を大にして伝えたいですね。
このほかにも、多読ジムを続けて良かったことを教えてください。
小路:良かったと思うのは、多読ジムでの共読が伝習座や破の別院で行うお題レクチャー、アリスとテレス賞の講評といった師範の取り組みや、仕事にも役立っていることですね。
仕事は、企業広報誌の記事やコラムの執筆・制作をしているので、取材したものを原稿にまとめるときに役立っています。
取材した内容をどう要約して紹介するか、取材相手のどの言葉を取り出すか、見出しのキーワードを何にするかなど、「要約、選択」「引用」といった編集術を駆使することは「エディション読み」のリコメンド文や、「三冊筋プレス」の知文と共通すると思っています。
たとえば「エディション読み」をすることで、千夜千冊をどう読むかとか、方法的にどう書かれているかに注意のカーソルが動くようになりました。
個人的には、師範ロールと読衆ロールのあいだを行ったり来たりすることで、お題に向かう立場や気分の違いを楽しめるのも良かったです。
増岡:お仕事は編集術の実践の場なんですね。編集術を伝える師範と、読衆あるいは仕事の現場から編集していくという、多彩なロールをもてるのが、編集学校の面白さ。
小路さんの言葉から改めて実感しました。
逆に大変だったことや時期はありますか?
小路:大変だったのは、師範ロールのことで煮詰まっているときです。
そういうときは、多読ジムは自主的にお休みすることが多いです。
同時にふたつ以上のことができず、ひとつのことで頭がいっぱいになってしまうので、
すっぱり諦めています。ポリロールといいながら、モノロール志向になっていますね。
増岡:なるほど。ポリロールとモノロールの関係は、編集学校はもちろんのこと、仕事や子育てなど日常でも情報のインプットとアウトプットを繰り返すことと繋がっているのかもしれませんね。
モノロールから、またポリロールへ向かうきっかけ、小路さんならではの方法があれば聞かせてください。
小路:
遊刊エディスト掲載はひとつのモチベーションになっています。
師範やライターとして書く原稿は、たとえば破の講座らしさを意識したり、クライアントの要請など何らかの制約がありますが、多読ジムで書く原稿は、素の自分を出せるのがおもしろくもあり、逆に難しいところでもあります。
ビジネスで使う紋切型の「ただの詞(ことば)」に慣れているので、編集学校がめざすところの「あやの詞」を書くのが一番苦手。
そういう表現を鍛えたい、という野望もあります(笑)。
増岡:バリバリのビジネスマンが編集学校に入って柔らかい「あやの詞」や表現力に苦戦する。それがお題ごとに変化していく様子が見えるのも、編集学校の特長ですよね。言葉やシソーラスを探し当てようとする、読衆さんの姿が素敵だなあと思います。
苦労話が続きますが(笑)、「三冊筋プレス」で最も負荷がかかるところってどんな点でしょう?
大変ななかで、工夫したところはありますか?
小路:「三冊筋プレス」の知文を書くにあたって、
三冊をどう関係づけるかを考えるときです。あらかじめ編集思考素を用いて三冊の関係を考えてから本を選びますが、つい読みたい本を選んでしまって、後で三冊をつなげるのに苦労するというパターンを繰り返しています。
最初に二点分岐で選んでも、書くときに三間連結になったり、一種合成になったり、途中で変わることもあります。
工夫したのは、三冊をつなぐ関係線を見直して、新たな関係線を探すことです。
本の中からキーワードやホットワードを見つけたり、著者の思想や行動に共通点を見つけたり、と方法はいろいろです。
冊師にヒントをもらうこともしばしばあります。見つけたワードや共通点を言い換えてニューワードが決まれば、あとは構成を考えてせっせと執筆に勤しみます。
増岡:三冊を一冊ずつ読むだけでなく、それらの関係を探してつなげていく。これこそ松岡校長が私たちに伝えてくださっている「多読術」であり、「本との交際の秘訣」ですね。
最後に、未受講の方に多読ジムをお奨めするとしたら、どんなリコメンド文を贈りますか?
小路:多読ジムというだけあって、多様な本の読み方があることが実感できます。何と言っても松岡校長の読書術を伝授された
大音美弥子冊匠はじめ編集学校生え抜きの多読師範、冊師から直接コメントをもらえるのがうれしく、このうえなくありがたい。
「三冊筋プレス」を仕上げたら、遊刊エディストに掲載してもらうチャンスもあり、お楽しみ企画も盛りだくさんあります。
多読の自由と共読の愉快を味わいながら、いっしょに読書筋を鍛えましょう。
増岡:読衆と師範とのあいだにも、たくさんの苦労や楽しみが詰まっていることを聞かせていただき、ありがとうございました。
これからもたくさんの小路さんが見られることを楽しみしています。
引き続き、共読のワクワクを味わってまいりましょう
※写真 season05【三冊筋プレス】「数寄も見立てもなかりけり」で組み立てた三冊
https://edist.isis.ne.jp/post/sansatsukin05_shoji/
千夜千冊
0017夜『定家明月記私抄』堀田善衞
1624夜『南方熊楠全集』南方熊楠
1736夜『献灯使』多和田葉子
Info
◉多読ジム season07・夏◉ 締切間近!!
∈START
2021年7月12日(月)
∈MENU
<1>ブッククエスト(BQ):ノンフィクションの名著
<2>エディション読み :『文明の奥と底』
<3>三冊筋プレス :笑う3冊
∈URL
https://es.isis.ne.jp/gym