【イシスの推しメン/8人目】元投資会社社長・鈴木亮太が語る、仕事に活きる「師範代という方法」とは

2022/11/20(日)09:00
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鈴木亮太師範

編集工学は、新時代のリベラルアーツだ。情報を自在に動かし、見方を自由にする編集術は、高専生からベンチャーキャピタルの社長業まで、その仕事に活かされている。イシスの推しメン8人目、今回の記事では投資のプロフェッショナルに、イシス編集学校での学びの活かし方を聞いてみた。

 

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イシスの推しメン プロフィール 

鈴木亮太

 

株式会社アルバクロス代表取締役。2015年からみずほ証券プリンシパルインベストメント代表取締役を務め、投資業務に携わる。2021年、自身の新会社を設立し、今年2022年約10年ぶりに師範としてイシスへ復帰。すぐさま感門之盟の司会や伝習座でのフライヤー発表進行役に引っ張り凧。その落ち着きある話しぶりに定評があり、その魅力は「抱擁するダンディ編集力」と称された。

聞き手:エディスト編集部

 

■チームに師範代が1人は欲しい!
 社長が実感する「師範代という方法」とは

――亮太さんは、いまはAIDAをご受講されているんですよね。

そうなんです。かねがね編集学校は、社会に対してもっと出来ることがあると思っていたんです。そんなことを佐々木千佳学林局局長とお話しているときに、ハイパーエディティングプラットフォーム[AIDA]という社会に開かれた講座があることを聞き、これは受けるしかないと思いまして。

――どんなときにイシスでの学びが実社会で生かされたらいいなと感じるんですか?

仕事をしていて、「チームに師範代がいたらなあ」とよく思っていました。前期49[守]で師範を務めて、そこには2つの理由があることがわかったんです。

――おぉ、気になります。

ひとつめは、コミュニケーションの潤滑油として。師範代って、師範と学衆のあいだをつなぎますよね。組織でもいくつかの階層のあいだや、内部と外部をつなぐことができる人って重要なんです。こちらは効率的に組織をまわす役割ですが、師範代ってそれだけではないのがすごいんですよね。創発を促すというもうひとつの役割が師範代にはあるんです。

――たしかに。エディティングモデルが交換することや、場を活性化させて新たなものを生み出すのは師範代という方法ですね。

大事なのは、このふたつを両立していることなんです。どちらだけだと、「ただの便利な人」か「ただの自由な人」になってしまう。

――優れた師範代なら、たとえば《地》が混乱しているような議論であっても《受容・評価・問い》という3つの方法を使って、指南、つまり進むべき「南」を指してくれますものね。

まさに「南」を見失わないことが重要ですね。ぼくは投資の仕事に長らく携わってきました。若いメンバーが「これに投資したいです」と提案をもってくるんですね。そのときにぼくがかならず尋ねたのは「そのビジネス、好きなの?」ということ。するとたいてい、「……儲かると思いますよ」という返事があるんですが、ぼくが聞いたのは儲かるどうかではなくて、好きかどうか、なんです。

――投資は儲けを出すことが目的ですよね? なぜ好みを尋ねるんでしょうか。

投資って、過去の情報を整理して、未来で成果を得るビジネスなんです。未来には何が起こるかわかりませんよね。そしてたいてい、ろくでもないことが起こります(笑)。そういうときに、儲かることだけしか考えていないとギブアップしちゃうんです。でも、「自分はこういう理由でこれが好きだ」とか「これは社会に残すべき仕事だ」と思えたら逆境でも踏ん張れるわけです。

――なるほど、組織が同じ方向を向いて走り、しかもビジネスのうえで利益を出すときにも師範代という方法が有効なのですね。社長業のなかで、編集稽古が活きたと感じられることはありましたか。

大きく2つありました。ひとつは、さきほど師範代としての方法でもお話したとおり、エディティング・モデルの交換が意識的にできたことですね。ぼくが社長を務めていたときは、社員は全員外部採用だったんです。すると、全員が新人時代、異なる社会人教育を受けていることになります。まったくバックグラウンドが違う人たちをひとつの組織に束ねるときには、師範代としてのやり方がなかったら無理だったと思います。

――多様な価値観のメンバーとコミュニケーションには、イシスの花伝所で学ぶ「花伝式目」が有効ですよね。

ええ。もうひとつ、応用コース[破]の4ヶ月目に学んだ《プランニング編集術》の経験も役に立ちました。社長として、新しい分野にも挑戦したんです。それを親会社に説明するときなど、《よもがせわほり》というプランニングの型を意識することで、説得力ある説明ができましたね。

――会社という大組織の経営にも、師範代という方法が効力を発揮するとは!


■SWOT分析の違和感をぬぐった
 《編集思考素》の威力

――そもそも亮太さんはなぜ編集学校に入門されたんですか。

前例のない仕事を任されたことがきっかけでした。当時は興銀証券(現みずほ証券)で働いていて、2000年、コンサルティングファームなどと合弁で投資会社を作ることになったんです。そのような未知の仕事を現場サイドとして担当するときに、どうやったら仕事の成果が上げられるのか考えざるを得なくなったんですよ。そしてその手の本を読み漁っていたら、『知の編集工学』に行き着きました。

――入門は2009年ですから、しばらく松岡正剛校長のことが頭にあったんですね。

そう、青山ブックセンターで「三冊屋」を知ったとき、「あの本を書いたのはこの人か!」と思ったんです。そして、この本を書く人はどんな人なんだろうってずっと気になっていました。

――実際に基本コース[守]に入門してみていかがでしたか。

入門して2ヶ月目に学ぶ《編集思考素》にハマりましたね。たとえば《三間連結》など3つの情報を扱う型を学ぶのですが、これを知ったら、これまで仕事で抱えてていた「気持ち悪さ」の原因が初めてわかったんです。

――情報を3つで扱うというフレームワークは、一般的にもありますものね。

仕事では「この会社の長所を3つ挙げよう」などというとき、メンバーの挙げてくる項目のレイヤーが揃わなくて気になっていたんです。それを指摘しても「それって趣味の問題ですよね」って片付けられてしまったのですが、編集工学として体系立てて学ぶとレイヤーが揃っていないというのは、たとえば「地がズレている」とか「フィルターが異なっている」などと説明がつくことがわかりました。

――なるほど、編集工学では集めた情報の良し悪しだけでなく、「どのように情報を集めるか」というプロセスまで扱えるからですね。

巷の本だと、「このフレームワークに当てはめればいいですよ」とだけ書かれているんですね。そうやって情報をバラバラにマス目に埋めていくと、全体像が見えてこないんです。でも編集工学の型だと、情報がうまくハンドリングできるんです。この感覚を知って「これこれ!これが欲しかったものだ!」とうれしくなりました。

――私松原もかねがね「SWOT分析」では、思いついたバラバラな情報を集めるやり方に違和感がありました。

情報を整理するのって、その後のアクションにつなげるためなんですよね。情報を集めて「で、どうする?」というその先まで、編集工学では考えられる感覚がありました。
鈴木亮太師範

■息子とともに学びたい
 リベラルアーツとしての編集稽古

――今期の50[守]では息子さんが受講しておられるとお聞きしました。

赤坂に編集工学研究所の事務所があったころ、幼い息子を連れて行ったこともあるんですが、その彼が社会人4年目になって、いまイシスでお世話になっています。

――息子さんはどんなきっかけでご受講を?

ちょうど営業企画の部門に移るというタイミングだったんですね。それならば、経営戦略のスキルなどを学ぶというよりも、編集工学のようなもっと根本的な力があったほうがいいよと、すこし背中を押しただけです。彼ももともと興味があったようなので。

――ベンチャー企業の経営に携わっておられるのも、息子さんたちとのご関係もあるとか。

ほら、仕事を引退したときに「父さん、いい仕事してたよね」って言われたいじゃないですか。投資って基本的には、短期間でリターンが得られるものが評価が高いんです。でも、子どもたちのことを考えても2040年、2050年に関心を向けたかったんです。投資先と長く付き合う覚悟で、いまの仕事に取り組んでいます。

――いまは学生起業家に対してベンチャーキャピタリストとして投資したり、コンサルしたりする仕事へ進んでおられるんですね。

ええ、東大の研究室のアドバイザーとしても仕事をしています。いまの学生は社会課題に対して敏感で、彼らを後押ししていくことは社会変革につながると考えています。

――亮太さんにとって、そのような取り組みにイシス編集学校での学びはどう関わってくるのでしょうか

ぼくは工学部の学生を相手にすることが多いのですが、日本の工学部には、高専から編入してくる学生もいるんですね。彼らは中学校を卒業した15歳から20歳まで、5年間みっちり実地で鍛えられている。だからかなりポテンシャルが高いんです。ただ、彼らは大学での一般教養を学んでいないことに悩んでいたりします。情報を自在に動かすためのリベラルアーツを学ぶ場として、イシス編集学校が関わっていく未来もおもしろいと思います。

 

 

アイキャッチ:富田七海

 

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  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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