【イシスの推しメン/4人目】松岡正剛はなぜ「7人の福田容子」を求めたのか 京都のフリーライターが確信した「言葉の力」

2022/09/25(日)08:45
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福田容子

 イシス編集学校は「言葉」を信じている。オンラインの通信教育だが、講師が動画授業を行うわけではない。教科書やワークブックが郵送されてくるわけでもない。教材も指導も、すべてがメールのテキストで届く。学びはすべて、電子の文字だけで行われるのだ。なぜそんなことが可能なのか。


 本シリーズ「イシスの推しメン」では、エディスト編集部が選んだ「イシス人」の来歴を尋ね、イシスでの学びの意味を探ります。今回ご登場いただくのは、この方です。

イシスの推しメン プロフィール 

福田容子(ライター、まいまい京都京都モダン建築祭実行委員会事務局長)

 

大阪生まれ大阪育ち、喋りも思考も執筆も超高速な凄腕ライター。京都に住んで20年、現在は京都の街歩きを企画運営する「まいまい京都」にて事務局兼同行スタッフを務める。イシス編集学校には、2010年春、基本コース23期[守]に入門。[守][破][離]と一気に駆け抜け、7季[離]では最優秀賞典離に輝く。その後全講座を修了し、師範として導いた教室は20以上。講座内での指導に留まらず、[守]のお題改編や書籍『インタースコア』の編集、多読ジムの講座立ち上げなど、イシス編集学校の活動全般を裏に表に支える。松岡正剛が「あと7人の福田容子が欲しい」と熱望した強靭な才能。通称ふくよ、趣味はスイーツ食べ歩き。


■ 妖しい事務所で不思議なワーク
  松岡正剛を知らないフリーライターがイシスに入門したワケ

 

――いまや応用コース[破]の番匠を務め、イシスではその袈裟斬り伝説などが不穏に轟く福田さんですが、入門のきっかけはなんだったんでしょう?

 

たまたまなんですよねえ。2010年の春ころ、仕事で縁のあったデザイナーの三木健さんから、ふいに「松岡正剛って知ってる?」って聞かれたんです。恥ずかしながら、ぜんぜん知らなくて。でも情報の分節化の話を教えてもらったら、すごく面白かったんですね。

 

――あら、松岡校長のことは知らなかったんですね。

 

そうなんですよ。ネットで調べたら、当時は東京駅の丸善に松岡校長が手掛けた「松丸本舗」が出来たことがわかったんです。私はいまは京都に住んでいるんですが、たまたま2週間後に東京出張があって、「ラッキー♪」と思いながら松丸本舗に行ったんです。そしたら、そこで小さなフライヤーを見つけました。金曜日の晩に編集学校の拠点で「門前指南」なるワークショップがあるというお知らせでした。つぎの東京出張は土日でのイベント取材だったので、前日入りして参加することにしたんです。

 

――「松丸本舗」は『松丸本舗主義』という本にその伝説がのこる奇跡の本屋でしたね。門前指南はいかがでしたか?

 

……こんなこと言うのもアレですけど、赤坂時代の事務所はめちゃめちゃ入りにくい雰囲気で(笑)。入口は狭いし薄暗いし、なぜかカウンターの奥に連れて行かれて、本に囲まれて座って……。なんだかちょっと不思議な場でしたね。そこで、リンゴを例に《地と図》の入れ替えワークをしたのは覚えてます。

 

――《地と図》とは、編集工学の基本の型ですね。「リンゴは、スーパーを地にすれば商品だけれど、音楽業界を地にすれば椎名林檎になる」みたいに、見方をダイナミックに変える方法です。そんな妖しいところ触れた編集工学の印象は、あまりよくなかったんじゃないかと不安なのですが。

 

うーん、正直言って、なにかが劇的にわかったわけではないんです。1時間ちょっと不思議なワークショップを体験しただけですしね。でも、帰り道に「やってみようかな」って思ったんです。そのときちょうど、3日後の月曜日が開講日だったんですよ。「あ、これはいいタイミングやな」と思ってポチっとしました。

 

――「たまたま」に乗り続けて入門に至ったんですね。

 

そうそう。だから、[守]で何を学ぶかとかそんなカリキュラムのことは一切調べないままでしたよ。開講3日前に滑り込みました。


■ クリエイティブ業界の企業秘密?!
  アイデアの種明かしする「振り返り」

 

――入門してどうでした?

 

んもう、おもしろすぎました。むっちゃおもしろかった。2つのことに圧倒されました。ひとつは、師範代のキャパシティ。

うちの教室は、暴れん坊の学衆が多かったんですよ。通称・妄想女王とか、いまAIDAで間匠となっている福元邦雄くんとか、ひとクセもふたクセもある人たちと一緒でした。だって「部屋にあるもの」を挙げるお題で、「30キロの銀塊(×2)」が登場することとかなかなかないでしょう?

素っ頓狂な回答も大暴投の回答もすごく多かったんですが、それに対して赤松木の実師範代(巴御前さま教室)がものの見事に切り返すんです。それも、たまに皮肉も嫌味もまぜながら(笑)。その絶妙さに惚れましたね。赤松師範代に完全になついちゃいました。

 

――ご自身が猛獣であり、さらに猛獣使いでもある福田さんをそれほど手懐けるとは、相当な器量ですね。

 

いやあ、あの姉御肌の赤松師範代の存在感ったらすごかったです。
もうひとつは「振り返り」という仕組みにびっくりした。編集学校は、お題に対して「回答」したら、その回答をどのように思いついたかという「振り返り」をかならず付けるんです。「これ書かせるんや!」って、クリエイティブ業界の人間としては驚愕したんです。

 

――ほう! プロライターとして編集稽古を見ると、どのあたりが掟破りだったんでしょう?

 

回答は「アイデア」振り返りは「アイデアの種明かし」ですよ。ライターにとっては、そんなん、もう、完全な企業秘密ですやん。仲間のライターに「この記事、どうやって書いたん?」って聞いたところで教えてくれへんし、「え、なんとなく~」って返されるのが関の山です。徹夜して考えたとしても、どうやってそのアウトプットに至ったかは絶対言わない。それほど大事にしたい発想の秘密を、みんなで共有するのって考えたことなかったけど最高やなと思いました。「この人、こういうふうに発想してんねや!」って、自分との違いがすごく面白かったです。

 

――お仕事でのライティングに変化があったりしましたか?

 

ソッコー使えましたね。入門して1ヶ月目、2ヶ月目の内容は、そのまま文章を書くときに活かせました。基本コース[守]の用法1と用法2では、情報をバラして組み替えるということを学ぶんです。それができるようになると、いままでずるずるっとひとかたまりに見えていた文章が、パーツごとに分解できるようになった。だから文章を自由に書き換えていけるようになったんです。

 

――文章の書き方は応用コース[破]で学びますが、[守]の段階でも十分にライティングに役立てられるんですね。

 

たしかに[破]では《いじりみよ》とか、文章の構造をつくる型を学びますが、あれも実は[守]で学ぶ《編集思考素》の応用です。だから、たとえば「この文章の構造は、ホップ・ステップ・ジャンプやな~」とか「ここで二点分岐、そのあと一種合成で戻る」とか意識するだけで、うねうねせずスキッとした文章が書けるようになります。断言します。

 

――そもそも福田さんはなぜライターに?

 

もともとはリクルートという会社で、進学情報誌の編集をしていたんです。そのときはディレクション業務が中心だったんですが、だんだんと自分で書きたくなったんです。だから、編集プロダクションに転職してライターになりました。社会福祉法人の発行物からハウスメーカーの情報紙まで幅広いジャンルの読み物を手がけるのは、やりがいがありましたよ。ライターといっても、自分の思いを表現するわけではなく、クライアントの思いを代筆する仕事です。そこで10年くらい働きました。

 

――入門当時は独立したばかりのころだったんでしたっけ。

 

そう、独立してすぐのときで、むっちゃ暇やったんですよね(笑)。自動車免許を2ヶ月で取りきったくらい暇だった。イシスに入門したのは時間があったことと、スキルアップせなと思ったことが大きいでしょうか。


■ 師範は禅僧? わからないけどおもしろい
  世界読書奥義伝[離]で手にした「確信」とは

 

――福田さんは入門して、わりとすぐの時期に一目散に「離」を目指したと聞いています。なぜだったんですか。

 

入門した2カ月後に、たまたまイシス編集学校の10周年記念の感門之盟があったんです。そこにしれっと参加したら、それがまあ、すごかった。校長のふるまいに痺れました。壇上には校長がいて、田中優子さん、町田康さん、金子郁容さん、安田登さんなど錚々たるゲストが数分ごとに入れ替わってトークしていったんです。そのときの校長の司会っぷりに感動して、その後の懇親会で「あれがすごかった」って当時の[破]番匠だった塩田克博さん、同じく[破]師範だった迫村勝さんに喋ったんです。

 

――なんと豪華なイベント。10周年記念感門之盟の写真は『世阿弥の稽古哲学』の千夜にも掲載されていますね。

 

そしたら、迫村さんが「抽象度の上げ下げが見事だったね」と校長のふるまいを説明してくれたんです。詳しく話してくれたんですが、話の7割くらいわからない(笑)。そのうえ、隣にいた塩田さんも禅僧みたいなことを言っている(笑)。でもそれがおもしろかったんですよ、「この人たち、私が想像もできひんようなこと考えてるんや」って。なんでそんなことを考えているのか、それが気になったんですね。

 

――「師範の言葉が謎すぎる」というのは、学衆のみなさんこっそり頷いておられそうですね。私もそうでした(笑)。イシスの師範は、禅マスターのような貫禄がありますからねえ。

 

それに加えて、その10周年記念イベントでは、世界読書奥義伝[離]の退院式も行われたんです。そこでは、離学衆の卒業論文である「離論」の一節が、太田香保総匠によって一人分ずつ読み上げられるんです。その文章が全員分すごい密度がものすごく高い。「何をしたら、こんなふうになんねやろ?」ってとにかく興味が湧いたんです。

 

――全員がとんでもないものを書きあげる講座、たしかになにが行われているのか興味津々ですよね。その野望どおり、[守][破]を終えるとすぐに[離]に飛び込まれましたね。感触はどうでしたか。

 

校長の講義に、とんでもないインパクトを受けました。[離]では校長のレクチャーをじかに聞けるんです。そのときの衝撃たるや。それまでは「編集工学」そのものに傾倒していたんですが、講義を聞いて「松岡正剛、ほんまにすごい人やな」とあほみたいに震えましたね(笑)。どんな内容なのか、[離]に進めばわかります。

 

――ぼく(吉村)は、福田さんを火元組(指導陣)として見ていましたが、受講中の福田さんは何かを確信しているような口ぶりだったのが印象的でした。

 

[離]で学ぶことは門外不出なので詳しい内容は言えないのですが、受講中に『正名と狂言』の千夜と原著を読んだとき、言葉への確信が湧いたんです。ライターとして広告的な文章を書いていると、言葉が経済に呑み込まれていることにすごくフラストレーションを感じていたんです。とても嘆かわしかった。でも、この千夜を読んで、その状況は言葉の本来の状況ではないと気づいたんです。力を失ったのは言葉ではなく言葉を使う側の人間なんだとわかったんです。

 

私はライターとしてその言葉をエコノミックに使うことが求められていて、それに疲れ果てていました。でも言葉の本来の機能はそうじゃない。言葉で出来ることはまだまだある。そう本気で思えたのが[離]での体験でした。

 

――なるほど。そんな体験があったから、「師範代にだけはならないぞ」とかたくなに拒んでいた師範代へも挑戦し、いまや番匠を担うほどになっているんですね。

 

そう、商業ライターの言葉師範代としての言葉は違うはずだと思えたんですよね。それに、編集学校や松岡校長からいただいたものが増えすぎて、「これを必要としている人は、他にもきっとたくさんいる」と思って、自分のことでいっぱいいっぱいになるだけではなくて、師範代として他者と関わりながら学んでみようと決めたんです。


■ 会いたい人がゴロゴロいる
  イシスという稀有なコミュニティ

 

――そんな思いを体現するかのように、イシス編集学校の15周年を記念する書籍『インタースコア』の編集中には、大阪から毎日のように東京へ通ってきてくれましたよね。「また、ふくよさんおる!」って日々驚いてました(笑)。なんでそこまでエネルギーを注いでくれたんですか。

 

いやあ、おもしろかったんですよね。ぜんぜんお金にはならないし、むしろ交通費で赤字になるし(笑)。でも、あんなに気持ちいいチームはなかった。たとえば、編集チームの米川青馬さんの朱入れを見ていると、とにかく的確でクレバーで勉強になりましたね。

 

――『インタースコア』の編集作業も、[守]のお題改編も、あらゆることを一手に引き受けてくれる福田さんを見て、校長は「あと7人ほしい」とつぶやいたんですよね。

 

ははは! 忙しいときのほうがいろいろとつながってくるので、むしろ効率よかったですよ。

 

――それほどまでに編集学校に入れ込む理由は?

 

イシス編集学校って、たとえば松岡校長のようなとんでもない人から、赤松さんとか塩田さんとか迫村さんとか、めっちゃおもしろい人がゴロゴロいるんですよ。新幹線乗ってでも「会いに行きたい」と思える人が、こんなにいるコミュニティ、ほかにあります?

 


現在、福田さんは2022年11月11日~13日に開催される「京都モダン建築祭」の企画に奔走。京都に現存するモダン建築を一斉公開するというまたとないイベント。オンラインの関連イベントも有。
公式サイト:https://kenchikusai.jp/

 

アイキャッチ:富田七海

記事中写真:エディスト編集部

 


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  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。