歌がめぐる。君が代から紅蓮華、宇宙からのラ・マルセイエーズ。東京オリンピックの聖火が消されるちょうどそのとき、46[破]は全番回答期限を迎えた。67名中50名の突破。111日間の知の練磨は、歌とともにあった。
46[破]別院は「うたよびの舟」と呼ばれていた。緊急事態が常態化し、人々が集えなくなって1年以上。カラオケなどもってのほか。もはや禁じられた遊びになってしまった「うた」を取り戻したいという番匠野嶋真帆のつよい祈りが込められていた。
舟に乗り込んだ一座は、学衆・師範代が入れ代わり立ち代わり、歌仙を巻いた。紡がれた20もの歌には、風韻講座さながらの読みで幾重にも余韻がつづく。響読を引き受けたのは、りとむ短歌会に所属する歌詠み・師範天野陽子。そして、師範会議の最中に46という数字から「四六時中も好きと言って」のフレーズを連想し、歌というテーマへの道筋をつけた評匠植田フサ子の2名。それぞれが月鑑・花鑑とたおやかな評者へ着替え、歌のさざ波を立てた。
美しく たたずむ姿 その影に
かかやく血汐 しるしなるらむ
(ジャイアン対角線教室 学衆M × 多項セラフィータ教室 師範代戸田由香)
◆
突破4日前の朝だった。学衆たちは、ゴールにむけて灼熱のマラソンロードをひた走る。静まった湖面に、ひとりの学衆が石を投げた。
夏の空 指一本の 崖っぷち
(ジャイアン対角線教室 学衆Y)
ふた月ほど止んでいた歌が、息をふきかえした。そして波紋は広がる。17週間の道のりのなかでもっとも体力のいる過酷なラストウイークに、のべ18名が歌い継いだ。
うつりゆく 言の葉かみしめ ときはなつ
朝焼け待たず 一直線に
(あたりめ乱射教室 師範代森本康裕 × 互次元カフェ教室 学衆U)
◆
8月8日、五輪閉会式が始まっても歌はやまなかった。大竹しのぶが「星めぐりの歌」を口ずさもうとするとき、突破前最後の付句が滑りこむ。そして22時の時報。すかさず学匠原田淳子が刻限を宣言。突破レースは幕を下ろした。締切4分前にラスト回答を投げ入れて「花火のよう」と形容された学衆は、その勢いのまま別院に火の粉を落とす。
火の花が こことあそこで 二重奏
遠くなる音 交わし合う声
(番匠 野嶋真帆/うたよびの舟渡し番 × あたりめ乱射教室 学衆Y)
◆
五輪会長は臆面もなく嘯き、一国の首相は平和の祈りを読み飛ばしても気がつかない。ただの詞(ことば)は力を失い、あやの詞は姿を消した。しかし、イシスでは違う。うたかたの国ニッポンが、たしかにここにあった。
光の輪とともに、オリンピック旗は小池百合子からパリ市長アンヌ・イダルゴへと渡った。突破もひとつの通過点。今期も開催されるのだ、あのP-1グランプリが。来月の感門之盟に向け、10の教室からは新たなプランニングが胎動が聞こえてくる。
▼こぼれうた
うたよびの連歌が咲き乱れるダリアなら、こちらは野のすみれだった。記事アイキャッチ画像は、開講以来、ほぼすべての指南に句をひねり続けた大塚宏(王冠切れ字師範代)が突破を祝いだ一句。4月19日、勧学会ひらきには「春昼や枝の揺すぶり陽と陰り」と木陰を提供し、5月26日、物語稽古でスター・ウォーズを選んだ学衆には「夏めきて銀河の塵のひとつ手に」と静かにエールを送った。
毎度のシグネチャーに添えられた十七音はあまりにひそやかで、しかし粒ぞろいだった。教室・勧学会あわせて、ゆうに500を超える。師範福田容子は粘りづよい自主稽古の模様を「野に咲く花のよう」と讃えた。
▼うた好きに捧ぐ
●[interview]『うたかたの国』編集者 米山拓矢に聞くうたの未来
【い】古文嫌いの少年時代
【ろ】『擬』もどいて、セイゴオくどく
【は】700年後の返歌待つ
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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