イシスのマル秘テク「共読」とは何か うるさい読書で千夜に挑む 46[破]伝習座

2021/04/08(木)18:47
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■ なぜイシス学徒は
  膨大なテキストを読めるのか

イシスは、読みの学校だ。ひとたび教室に座れば、つぎからつぎへと読むべきテクストがやってくる。それは、まるで「はい、じゃんじゃん」「はい、どんどん」と投げ込まれるわんこそばのようである。
[守]に入門すれば、数日に一度配信されるお題を読み、師範代から届けられる指南を読み、学衆仲間の回答を読み、師範や番匠からの講評を読み、校長の千夜を読む。

 

師範代や師範たちは、里帰りする息子を歓待する郷里の母のごとく、ありったけの読みものをふるまう。学衆は驚く。入門当初は、その情報量の多さに。しかし、あるとき気づくのだ。いまやあれほどのボリュームでも、するりと平らげている。これはなぜなのだろうか、と。

 

愛用のPILOT Vコーンを手に、読みを進める校長松岡。ペンや服装、茶碗、灰皿など読みのお供にもフェチがある。

 

 

■ カギは「共読」
  読みをすすめる「うるさい読書」

 

編集学校での読みには、「共読(きょうどく)」という特徴がある。読書の一般的なイメージは、ひとり静かに本の声に耳を傾けること。しかし、にわかに推奨されはじめた「黙食」がどうも味気ないように、人は自分の思いをだれかと共有したいものである。読書も同様だ。

 

イシスの読書は、かなりうるさい。ラグビーW杯を観戦するように読み、椎名林檎のライブに陶酔するように読む。間仕切りにされたブースのなかで、本と私がふたりきりになることではない。隣り合った仲間としゃべりながら、ともに本を読む。おもいきりつばを飛ばして語りあうのがイシスという「共読区」なのである。

▲ 2021年3月に開催された感門之盟のテーマは「inform共読区」 積み重なった本の束が、にぎやかに羽音を立てている。

 

 

■ イシスの双子は千夜千冊
  千夜を読みとく作法とは

 

共読区でいちばんの副読本は、校長松岡正剛による千夜千冊。イシスと千夜は、同じく2000年に生み出された双子の兄弟なのだ。現在1767夜まで数える千夜には、怯んでしまうほどの知が煮えたぎる。
どのようにして、ここへ挑めばいいのだろうか。この読み解きの作法が、2021年3月に開催された46[破]伝習座にて明かされた。

 

野嶋真帆(46[破]番匠)は、第500夜アルベルト・ジャコメッティ『エクリ』を題材に選んだ。これは、松岡正剛事務所の辣腕ディレクター太田香保(総匠)をして、「何かを引き受ける覚悟が見えてきた」と言わしめた転機の一夜だ。

 

▲ イシスでの学びは「知」と「方法」が両輪。編集学校公式ページには、カテゴリごとに選りすぐられた千夜がまとめられている。

 

 

■ 編集術で千夜を読む
  [破]で学ぶ「文体編集術」

 

プリントアウトした千夜を片手に、豪徳寺の学林堂から野嶋は問いかける。『エクリ』は450ページの単行本、千夜になるとそれがA4用紙5枚になる。この濃縮編集にはいったいどんな方法が使われているのだろうか。

学林堂には学匠をはじめ番匠・師範・評匠ら10名が集い、画面越しに師範代と共読する。

 

Zoomに集った10名の師範代は、秘伝を掘り起こすべく一人ずつテキストを音読してゆく。

ジャコメッティは勇気である。

不変の勇気ではなく、誰にも注がれる勇気ではない。ぼくにとって必要な勇気なのである。

だから、その勇気は「50グラムの勇気」である。

500夜『エクリ』

数段落ごと、一座がおなじ速度で文章をあじわう。ひとりが読み終えるたび、野嶋はプレゼント箱のリボンをするするほどくように、編集術を取りだしてみせた。

 

「キーワード、ホットワードには、どんな『らしさ』が畳み込まれているでしょう」

「5つのカメラはどのように動いていますか」

固有名詞の連打で、ワールドモデルが伝えられていますね


ごつごつした彫像の裏側を照らす月明かりのようなガイドをうけ、師範代からも言葉がこぼれる。50分かけて50グラムの勇気を読みとく。すると、文章の構造はくっきりと浮かびあがり、書き手がにじませたひりつくような孤独と決意が身に迫ってきた。[破]で学ぶ文体編集術の威力だった。

 

 

▲師範代に配布されたレジュメの一部。野嶋の本職はデザイナー。

 

■ 人はどうして編集するのか

    
ひととおり読み終え顔をあげた師範代に、野嶋はさらに問いかける。
「私たちは、どうして文体編集術を学ぶのでしょう」

 

そこで静かに語られたのは、野嶋の切なる抵抗だった。アニー・ディラード網野善彦、佐藤信夫など知覚と表現のあいだで格闘した先人の言葉を引きながら、「既知の書ける言葉で、お茶を濁したくないんです」と吐露した。

 

 

野嶋は編集学校入門まえ、「何を言っているかわからない」と周囲にどやされたたという。そのたびに、相手の使う言葉に言い替えてやりすごしていた。でもそれは、自分の伝えたいこととはかならずズレてしまうのだ。

「そうやって手垢のついた言葉を使っていると、自分自身の体験までが手垢にまみれてしまいます。そんなのはもう嫌です」

 

まだ言葉にならないイメージを、そのまま取りだすことは不可能である。けれどもジャコメッティはあがいた。知覚と表現のあいだにある絶望的な溝に、なんとか橋をかけようとした。松岡はその勇気に触発されて、終わりなき編集へ足を踏み入れた。自分の知覚したリアリティをどうにかして他者と共有するには、未知なるエディトリアリティを塑像するしかない。「伝えたい。でも、伝わらない」このもどかしさこそが、人々を編集へと駆りたてるのだ。

 

エクリとは編集それも終はらない実現不可に近づく試み(小池純代)

 

 


▼46[破]締切間近。最終受付は4/12(月)
https://es.isis.ne.jp/course/ha

 

写真:後藤由加里

共読区イメージ:穂積晴明

レジュメ:野嶋真帆


  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。

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