をぐら離 文巻第5週 ─「メディアとしての書物」

2021/01/17(日)09:28
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 世界読書奥義伝 第14季[離]は、2021年、離スタート。離学衆は第5週の怒涛の稽古に没頭中です。
 「をぐら離」では、析匠、小倉加奈子の日常を通した離の姿をお届けしていきます。門外不出の文巻テキストをもとに進められていく離の稽古の様子を少しでも想像いただければと思います。

 

1月9日(土)


 ボードレールの照応は、自然の中での照応ではない。方法の中での照応である。合理的なものじゃない。言葉の化学反応の中での照応だ。とくに事物どうしが時間の中で照応しあうことに、ボードレールは自分のいっさいの想像力を浪費した。
──千夜千冊773夜『悪の華』


 

 離史上初のオンライン講評会。年末の稽古をもとに火元校長が離学衆ひとりずつに声をかける。編集の奥義が手渡される瞬間を参加者全員で共有する稀有な時間であった。イマジネーションのリプリゼーションに挑戦し続けてきた著者たちと出会い、交際するのが世界読書奥義伝。「すきなひとたちぶんをぼくにする」。憧れの対象で自分を満たすって本当に素敵。会えない人の面影を含めて自分を好きで溢れさせたい。

 

1月10日(日)


 触知的とは、言葉を彫刻のように見えるものにする、裸にすることである。
──千夜千冊39夜『フランスから』



 昨日の講評会の興奮冷めやらぬ14離。まさに今週から離スタート。明日からの第5週の文巻配信に向かって、残お題に向かったり、再回答にいそしむ離学衆。明らかにお題への向かい方が異なる。オンライン講評会の場の力を再確認する。触知的記憶が肌感覚であるという言い換えは、編集の将来を考えるうえでは固執しない方がいいように思えてくる。リアルだけが触感なのではない。

 

1月11日(月)


 マラルメは言語の魔術師なんかではなかったのだ。マラルメはついに個人であることを拒否しつづけた一対の六面骰子の書物なのである。
 編集する書物。それは突発。
──千夜千冊966夜『骰子一擲』


 

 MEdit Labのワークブックの執筆に集中する。守の編集稽古とそのお題文を参考にしつつそこに14離の今の自分自身の学びが投影されていく。読んできたことを書く。今この瞬間だから書けることを書くのは離学衆の稽古と同じ。

 

1月12日(火)


 読書は交際なのである。交際の相手は一人とはかぎらない。著者との交際、版元との交際、エディターや校閲者との交際、書店との交際、その本を読んでいるだろう多くの読者たちとの共読的交際など、いろいろに本は人と接触し、さまざまに「読み」は取り替わる。本は終結のない編集的交際なのである。

――『松丸本舗主義』p.173


 

 午前外勤、午後はゴートクジ本楼で、MEdit Labのインタビューを吉村さん、衣笠さんとともに受ける。多様な読書が体験でき、学ぶ方法を学ぶ稽古が随所に仕掛けられたMEdit Labの魅力を伝えるにあたり、2万冊の本たちが後押ししてくれる心強さ。本楼が温かい。わたしたちのホームグラウンド。

 

 

1月13日(水)


 デジタルとアナログのあいだには、一致と不一致、連続と非連続、鍵と鍵穴をつなぐものとして、必ずや「アナローグ」(類似性)というものが行き来する。すなわち二つのあいだはパースの言うアブダクティブな「アナロジー」(類推関係)でしか埋まらない。
──千夜千冊1616夜『生命記号論』


 

 朝から晩までサインアウトに追われるまさに“おしゃべり病理医”のモデルになるような1日。顕微鏡を動かし足下に次々と見えてくる情景を何かに見立てながらの実況中継。このまま行ったら病理医の古舘伊知郎を目指せる気がしてくる。夕方は緊急事態宣言下における診療体制の緊急会議と病理解剖検討会の連打。緊急時においてもこれだけは譲れない、というものを再確認する。
 夜、小森さんから上杉さんへマーキング読書用の作曲オーダーが入る。読書のための音楽とは何か。触知的な音楽とは何か。音楽の快楽とは何か。MEdit Labラウンジで言葉にできそうにない言葉をなんとか言葉にしながら交わす。

 

 

 

1月14日(木)


  安田さんは、ワキには「分ける」と「分からせる」という二つの特別の役割があるとみなしている。「分ける」というのは分節能力があるということで、世阿弥が名著『能作書』のなかで詳しくのべているように、絶妙の謡曲作法によって言葉をアーティキュレート(分節)しながら、ワキがシテの世界を分明していくようになっている。
──千夜千冊1176夜『ワキから見る能世界』



 今日も難症例の診断が続く。腫瘍なのか炎症なのか、良性なのか悪性なのか。境界をまたぐ決断には勇気がいる。診断の責任というのは、下した医師ではなく、最終的には患者さんが命がけで負うものである。だから、診断に至るまで、惑い迷い立ち止まるを繰り返す。そして、決断したらそこに躊躇の痕跡を残してはいけない。

 

 

 

1月15日(金)


  いまや和食はWASHOKUである。英語版ウィキペディアもそうなっている。定義はむつかしい。ポークジンジャーと豚の生姜焼き、ハッシュドビーフとハヤシライス、鉄板焼きに属する和風ステーキやお好み焼きなど、境界があいまいなものも少なくない。

──千夜千冊1556夜『和食の知られざる世界


 

 外勤に行く。どの病院も救急は逼迫していることがわかる。淡々と病理診断する。夕食は、明日の大学共通テストに向けて家族みんなでトン勝つ。拓海、がんばれ。

 

 

 

1月16日(土)


 コロナ禍を耐えて、という。しかし、この200年で最も禍々しいものだったのは「近代化」と「標準化」だったではないか。ニューノーマルになろう、という。しかしこれまで38億年にわたってニューノーマルをめざしてきたのは、生命の歴史そのものだったのではないか。諸君、いったいいつまでとんちんかんを続けるつもりなのか。 

──千夜千冊1761夜『表象は感染する』


 

 コロナ禍に耐えて、息子はテスト会場へ。ニューノーマルを目指した共通テストっていったい何が変わったんだろう?何を目指しているのだろう?
 緊張した面持ちの息子を送り出す。彼のキンチョーが伝わり感極まり思わず握手し、がんばれ~と変な踊りを玄関先で踊ってしまった。笑顔で出ていった。僕のお母さんはフツーじゃないのが自慢といってくれた息子が愛しい。

 午後は、ハイパー視聴。進化発生学がご専門の倉谷滋先生の話がむちゃくちゃ面白い。ヴンダーカンマーなご自宅から繰り広げられるレクチャーは、驚異の連続。動物の発生における構造的ネットワークの保守性。いったん便利だと決められたルートから逸れるのが難しいということ。生命でそうなら、社会のレベルでは言わずもがなである。バロックとルネッサンスの移行期のマニエリスムを例に、動物と文化の進化を比較したり、アケビコノハ幼虫とキュビズム絵画の相同性への言及などなど、倉谷レクチャーはあちこちに枝を伸ばしていく。外側の筋肉である僧帽筋は顎を持つ動物しか持っていないという例示から始まった内側から外側への進化の連なり現象を伺ったときは、ブリコラージュ的な編集工学との類似性を感じた。さらに松岡座長とお弟子さんを交えた鼎談、吉村林頭の略図的原型レクチャー、などなど、あまりの刺激的知の連打に動悸がした。編集的世界観の広がりと奥深さを再確認した貴重な体験であった。

 

キュビズム的アケビコノハ幼虫

 

 

 

【をぐら離】

をぐら離 文巻第0週

をぐら離 文巻第0.5週

をぐら離 文巻第1週

をぐら離 文巻第2週

をぐら離 文巻第3週

をぐら離 文巻休信週

をぐら離 新春特別便「セイゴオの生き方・対談もどき」前篇

をぐら離 新春特別便「セイゴオの生き方・対談もどき」後篇


  • 小倉加奈子

    編集的先達:ナシーム・ニコラス・タレブ。病理医で、妻で、二児の母で、同居する親からみると娘、そして師範であり火元組。仕事も生活もイシスもすべて重ねて超加速する編集アスリート。『おしゃべりな図鑑』シリーズの執筆から経産省STEAMライブラリー教材「おしゃべり病理医のMEdit Labo」開発へ。おしゃべり病理医の編集的冒険に注目!

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