「8時間、ただの一度もトイレに行くことなく画面のまえにいました」
45[守]オンライン伝習座の終盤だった。一座がどよめく。元舞台女優、野住智恵子師範代は、新種の生物を発見したかのように興奮している。
「この長時間、舞台を見続けるなんて考えられへんことです。奇跡やと思う」
[守][破]では期間中2度、指導陣が一同に会し、互いに研磨しあう。それが伝習座だ。今期はすべてオンラインに切り替わった。第153回のこの日は、けっしてミスをしない佐々木千佳局長が「感門」と思わず言い間違うほどに、贅と編集を凝らしたしつらえであった。
Zoomの参加者を丸一日釘付けにする方法はなにか?
伝習座総監督の小森康仁ディレクターは断言する。
「とことんやりきって、捨てるものを捨てて、またやりきる。校長のその繰り返しが、この場を作っています」
100Kgはあるブビンガテーブルを10人がかりで動かしたかと思えば、しゃがみこんでは紫陽花の向きを整える。その直後、コンマ数秒単位でカメラワークの間合いを調整する。野住のいう「奇跡」は、ミリ単位のパーツが寸分違わず幾千と組みあげられた、細密で豪奢な花火玉の連打である。
「20周年感門はみんなに任せたいからね」と前置きをして、松岡正剛校長は、壮絶かつ緻密なプランニングの方法を明かした。
[1]まずは、うちうちで驚く
ただオンライン用に変更するのではなく、自分たちが見たことのないものを作りなさい。
今回のように、本棚劇場に師範が横一列で並び、本楼に複数の島をつくるポジションは、編工研スタッフも見たことがない。自分たちが驚くようなものでないとだめだ。
[2]準備を尽くす
そのうえで、事前の準備を分厚く貯めること。
対談なら打ち合わせもする。師範陣の語りも、すべて前日リハで2、3点のディレクションを入れている。頭上に貼った幣のようなお題札は、『の』が大きいから、小さくしろ」などフォントの調整までかけている。とくに重要な幕開け5分の演出は、前日当日合わせ都合5回のテストを行った。
[3]相談できる相手をもつ
そして、だれかに相談すること。ぼくがなにかをするときは、ピンの人を見る。
紫陽花を飾ろうと思ったら、田中所長に頼む。そうやってぼくが、誰かにお題を出す。どんな紫陽花が来るのか、どこに置くのかを見て、それにぼくが応じていく。自分ひとりだって、いくらでもできます。けれど、それはふつうのこと。ふつうじゃないことをしないと意味がない。
今回は「鈴木康代劇場」というコンセプトを立てた。この実現には、吉村と小森という相談できる2本のピンが必要だった。本楼のディテールについては、上杉の反応で確かめる。
よく気がつくところは、一人ひとりみんな違います。
隠れた注意のカーソルを駆動させる人を、それぞれがもちなさい。
締めくくりに、松岡校長は全イシス学徒にお題を出した。
「編集学校の『秘すれば花』を解いてもらいたい」
たとえば、見たことのない教室名がつくこと、一人ひとり感門表が異なること、「番匠」という他にはないロールがあること。編集学校の教室に、廊下に地下室に、ゆうに100を超える秘密が息を潜めている。
それはすべて、校長がしかけた時限爆弾だ。
人を、場を、思考を、世界を揺るがす砲火を浴びてしまったイシスの民は、今度はそれぞれが仕掛ける側にまわらなければならない。NEXTイシスに火をつけるのは、これを読むあなた自身である。
(photo by 後藤由加里)
「編集はひとりではできません」 交わし合いをうながして、鈴木康代学匠は伝習座の1日を仕舞った。
▼この45[守]伝習座のプランニング風景はこちら:
▼45[守]伝習座の布陣はこちら:
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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