発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。

「錬成場だからこそ何度でもやり直したくなる」
とは師範代を擬いた道場生Gの言。花伝所では錬成演習の真っ只中だ。こうした声たちに応えるように師範の相槌が鳴り響き、打ち合いが続いている。さながら作刀の鍛錬のようである。
いま叩いている刀の材料はダイヤモンドだ。ここ、イシス編集学校のダイヤは叩いても割れない。やわらかい(※)から。※守の編集稽古に「ちょっと不思議な『ありえない言葉』をつくる」というお題があり、題名を「やわらかいダイヤモンド」という。
これまで学んだ花伝式目と熱して叩いて、真ん中でボッキリ折って、また叩いていく。叩いているのか、折られているのか。
道場生の刀であり、刀の道場生である。何度も叩いて折り曲げて。ツルツルをケバケバにしていく、なっていく。
大人のビジネスパーソン諸君、君たちはゴミとムダがふんだんにまじっている仕事を合理化するあまり、人間というものをツルツルにしてしまっている。[…] それではいけません。あらためてケバケバを取り戻しなさい。
1540夜 『想像力を触発する教育』 キエラン・イーガン
錬成師範松永惠美子の相槌が打たれる。「学衆のイメージと師範代のイメージはズレがあっても良いのです。正解を探すわけではありません」 応えるようにツルツルの正解へと滑っていた槌が次第にケバケバとした可能性へ音を響かせる。不正解にみえていた違いやズレといった不足を包摂して叩かんとするからだ。
ぼくが評価する才能の大半は[…]ほとんどネガティブ・ケイパビリティ(負の包摂力)に連座するものである[…]この才能は「安易な答えに走らない」という編集信条に支えられているもので、それこそはぼくが培ってきた編集力の大事な正体でもあるということだ。
1787夜 『ネガティブ・ケイパビリティ』 帚木蓬生
ときに異質な音が交じる。全演習の終了が12月11日と間近であり、これまで取り組んだ演習M1~4の叩き直しが並行しているのだ。式目演習を往きつ還りつ、そこで相槌を構える師範が違い、ときに指導をも交じる。
編集力は一問一答でも一問多答でも多問多答でもなくて、複問・複感・複応・複答・複返であるということになる。かつて詩人の岩成達也は、このようなエッシャー風の行ったり来たりを「半開複々環構造」と名付けたものだった。
1787夜 『ネガティブ・ケイパビリティ』 帚木蓬生
るつぼと化した鍛錬が焼入れを迎える。そこで各々の刀に唯一無二の刃文を浮かび上がらせるだろう。だが、まだ終わりではない。道場生は刀の研ぎ、花伝式目の仕上げに向かう。
研がれ磨かれし刀身はどんな輝きを魅せることだろう。
文 蒔田俊介
アイキャッチ 阿久津健
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2025-07-01
発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。
2025-06-30
エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。
2025-06-28
ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。