【このエディションフェアがすごい!08】丸善 松本店

2021/06/17(木)09:16
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 信州松本といえば、アルプスの山々を望む風光明媚な「岳都」であり、セイジ・オザワ松本フェスティバルを世界に轟かせる「楽都」です。そしてまた、開智小学校や旧松本高校など日本の教育近代化のシンボルを今に伝えるとともに、明治時代に「教育立県」をめざし先駆的な教育振興事業にとりくんだ筑摩県の文化風土、さらには自由教育運動や自由大学ムーブメントなど輝かしい教育文化史を育んだ信州を代表する「学都」でもあります。

 

 そんな松本市の中心街で、一般書はもとより専門書まで充実した棚揃えを誇る丸善松本店は、開店してからまだ10年と歴史は浅いものの、学都のお客様たちの旺盛な知識欲を満たしている信州屈指の大型書店です。すでに固定ファンが付いているという「千夜千冊エディション」を全冊揃えて、新しい読者にアピールすべく創意たっぷりな「知祭りフェア」が始まっています。

 

 松本を代表する歴史シンボルといえばやっぱり松本城。黒い鎧で身を固めたような、現存する日本最古の五重天守。

 

 郷に入ればまずはできるだけ高い場所に登って「国見」をするのが松岡正剛事務所のスタッフの心得。何はさておき天守最上階(6階)に登り、松本市街を望む。

 

 「蔵のある街」として観光客に人気の中町通りは、コロナの影響なのか、土曜日の午後なのにこのまばらな人影。

 

 全国に先駆けて「教育立県」をめざした筑摩県の学事政策の賜物、開智小学校。現在まで保存されてきた校舎は、明治初期に各地にあらわれた擬洋風建築を代表する文化遺産としても知られる(国宝・明治9年完成)。設計は松本の大工棟梁・立石清重。天使を配した「てりむくり」の破風がチャームポイント。

 

 唐木順三、臼井吉見、北杜夫、辻邦生などの文学者を輩出した旧松本高等学校の保存校舎(大正9年完成)。昭和25年からは信州大学校舎となり、昭和48年まで使用されていた。

 

 丸善松本店はJR松本駅から徒歩5分、「コングロM」の地下1Fから2Fまでを占め、一般書から専門書まで充実した棚揃えを誇る大型書店。

 

 1Fフロアーの半分ほどを占める文房具売り場。松本店は人文書がよく売れるとともに、文具の売上も他店にくらべて高いという特徴があるのだそうだ。

 

 地下1Fの「思想・歴史ゾーン」の一角にしつらえられた千夜千冊エディション知祭り棚。さまざまな版元さんが仕掛けるフェアとは一味ちがう、迫力のあるポスターとPOPが眼を惹く。

 

 千夜千冊エディション全20冊に、それぞれの内容を解説する二色使いのオリジナルPOPを添えて。

 

  メインポスターのほかに、大小の3種類のPOPを組み合わせて設置。棚からはみ出す大胆なディスプレイが、お祭り気分を盛り上げている。

 

  エディション棚の側面にも、メインポスターと2種のPOP。フェアスペースは決して広くないが、ツール使いはともかく大胆。棚組とディスプレイは人文・語学書担当の吉江いずみさんによるもの。黒の統一感が、“烏城”こと松本城を彷彿とさせる。

 

  漆黒の表紙のフェア用小冊子の置き方、『本から本へ』『文明の奥と底』の添わせ方にも、よく練られた工夫が感じられる。中央通路から見えないフェア棚にお客様を誘導するために、どの「エディション」を見せるのがいいかを試行錯誤したのだと、吉江さんが語ってくれた。

 

 フェア導入を差配してくださった土屋容店長。1年前、コロナ禍のまっただなかに松本店店長として赴任してきた。お気に入りの一冊を選んでもらったところ、すかさず棚の一番うえに置かれていた『情報の歴史21』を手にとってくれた。

 

 

 土屋店長は、これまで東北を含む各地の書店3店舗ほどで店長をつとめてきたそうです。他店とくらべての松本店の特徴をうかがったところ、「思想書がよく売れるということですね。人文系の本の新刊なども、置けば必ず買ってくれるお客さんがいる。地方の書店ではなかなかないことなんですよ」。

 現代思想書の棚にはいまをときめく論客たちの書籍が見出しとともにずらりと揃えられ、そのなかに「松岡正剛」の見出しと10冊ほどの著書もちゃんと並べられていました。「松岡さんの本もよく出てますよ。千夜千冊エディションも必ず買われるお客様がいますね」。

 ただ残念なことに、コロナ禍によって観光客が激減し街全体がそのあおりを受けているなか、書店にくるお客様の層にも多少の変化が起こっているとのこと。それでも、「このエリアで思想系の本をしっかり揃えているところといえば、私どもと、あとは長野の平安堂さんくらいではないでしょうか。ですから棚揃えだけは守り続けなければと思っているんですよ」と、さわやかにコメントしてくださいました。

 学都松本が育んできた「学び」のミームは、人文書の棚揃えに心をくばる丸善松本店にも、確かに息づいているようです。

 

 旧松本高校の保存校舎の廊下でみつけた教育振興ポスター。擬洋風の開智小学校校舎をバックに、「どこにでも学びはある」の堂々たるメッセージ。明治の信州人たちの教育立県の気風がいまなお生きているのだろう。

 

 

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    編集的先達:レナード・バーンスタイン。慶応大学司書からいまや松岡正剛のビブリオテカールに。事務所にピアノを持ちこみ、楽譜を通してのインタースコア実践にいとまがない。離学衆全てが直立不動になる絶対的な総匠。

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