ジャイアンの聞く力――46[守]新師範代登板記 ♯8

2020/12/18(金)10:37
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 先週末から、[46守]別院では学衆の自己紹介が始まっている。別院は、当期全員が参加できる交流の場だ。
「声」を挙げるには勇気がいる。教室にようやく慣れ始めた学衆にとってはハードルが高いが、それでも声を発してほしいと願う。筋トレだって負荷をかけねば意味がない。編集稽古もまた同じだ。

 

 自己紹介は、番匠、師範、師範代、学衆と順に続いていく。お前はどうしたって? おい、俺を誰だと思ってるんだ。もちろんジャイアンは師範代の一番手で声を挙げた。凪いだ水面を見つけたら、岩を投げ込むのがジャイアンの流儀だ。それだと水しぶきが周囲にかかる? それが狙いだ。ザワザワ、ゾワゾワすれば、場は動き出す。

 

 自分の教室の学衆が声を挙げるのは、また格別だ。これだけで5時間は幸せな気持ちに浸っていられる。
 中でも嬉しかったのは、学衆のひとりが「ウエルカムメッセージ」に触れてくれたことだ。教室に掲げられた師範代の言葉を胸にこれからも稽古を楽しんでいきたい、とあった。

 

 エディットカフェにアクセスし、それぞれの<教室>や<勧学会>のアイコンをクリックすると、左側にはスレッド、右側にはメッセージが飛び込んでくる。これを「ウエルカムメッセージ」と呼んでいるのだが、ここを設えるのも師範代の役目だ。
 最初に飛び込んでくる場所に何を書くか。ここには師範代がどんな教室にしたいかという思いが込められている。

 

 ジャイアンの<教室>は、この言葉で始まる。

   弱々しい声でも、調子っぱずれの声でもかまわない
   デタラメな歌でも、つぶやきでもかまわない
   自信満々でいい、自信がなくてもいい
   発すればカワル、言葉にすれば思考が動き出す

 

   あなたの「声」を教室に響かせよう

 

「声」を聞くのは誰か。もちろん師範代だ。
 ジャイアンのライバルは、《読むスキルが覚束なくては指南の方向が定まらない》と断じたが、「読む」というアプローチには正直、引っかかる。
 実感として、教室での情報は、「書かれていないこと」が多い。エディットカフェにアクセスしているのに一向に顔を出さない学衆の気配。共読しているけれどもそのことを微塵も出さない学衆の照れ。聞いてほしいけれど「聞いて!」と言えずに、そっと紛れ込ませた言葉は、読もうと思うと入ってこない。なぜならば「重要な言葉」ではないから。読み慣れた人ほど重要語句を拾ってしまい、忍ばせた言葉や、おずおず置いた言葉の上を素通りしてしまう。誰もが面と向かって「好きだ!」と言えるわけではない。

 

 回答は「読む」ものではなく、そっと耳を傾けるものではないだろうか。

 

 花伝所の同期で、「あ、この人、聞くのがうまいな」と前々から感じていた師範代がいる。長野佳代子師範代(メーテル薄板界教室)と、中島紀美江師範代(黄昏メビウス教室)だ。
 会話でいうと、相手の発言を待つ「間」があるのだ。挨拶文でも指南文でも、相手を待って、受けてから言葉を返す。自分から話題を振る場合もあくまで会話の誘い水であり、「わたし」が前に出てこない。指南の言葉も受容たっぷりで、わが子を抱き止める母親のような母性すら感じる。
 聞くと、やはり2つの教室は、学衆が押し並べて賑やかだという。それぞれ「メーテルズ」「たそめび」という愛称も生まれ、学衆はのびのびと稽古に励んでいる。「賑やか」だけが教室の正解ではないが、「師範代が聞いてくれる」という安心感が発言密度を濃くしているに違いない。

 

 そうだよ、安心感だよな。
 実際、グーグルの大規模な社内調査によると、メンバーの能力ではなく、メンバーの発言が均等なほどチームの生産性が高いという。活発な発言を担保するのは「心理的安全性」であることもわかった。
 ハハハハハ。オレ様の見立て通りではないか。

 

 別院に登壇した角道ーズの自己紹介を眺める。
 なになに? 辛口の指南、師範代にしごかれる……。ムムム? どんな声にも耳を傾ける優しいジャイアンの姿はいずこへ?

(2020.12.18)

 

▲角道ジャイアン教室のウェルカムボード。角道も開けてみたのだが……

 

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  • 角山祥道

    編集的先達:黒岩涙香。「松岡正剛と同じ土俵に立つ」と宣言。花伝所では常に先頭を走り続け、感門では代表挨拶。師範代をしながら同時にエディストという前代未聞のプロライター。ISISをさらに複雑系にする異端児。

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