38[花] キャンプファイヤー 言葉をくべる

2022/12/19(月)09:00
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達成感や無力感、労いや悔い、希望や不安が、「言葉」となってはすぐに炎に包まれる。2022年12月18日の夜。「指南編集トレーニングキャンプ」のラストプログラムである「キャンプファイヤー」も、これまでの演習と同じく「言葉」だけで行われた。


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その炎に思い出す。筆者が[守]の学衆として稽古を終えたばかりのことだ。勧学会に交わし合いの場を設えた師範代は、小さな火を起こすと「色んな言葉をくべましょう」と誘った。その言い回しを気に入った私は、「ああ、イシス編集学校はメタファーの学校なのだ」と、どこか合点したものだった。その感覚は、5年経った今も変わらず残っている。


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2022年12月17日、18日と2日間を駆け抜けた花伝所のキャンプでは、実戦指南に加え、[守]38題をリミックスする翻案編集のお題が課された。時間的制約の中でのテキストだけの不自由なコミュニケーションに、入伝生のネガティブ・ケイパビリティも試されている。

言葉は期待したそのままの意味では届かない。思考を100%共有することはできない。私たちはいつも誤解し、誤配し、誤読する。しかしだからこそ、他者の言葉を引き受けることで、思わぬ発見の果実を手にすることができる。

 

わかりにくくてすみませんね…。そうそう、各象限で移りながらなんですが、その時に世界と自分に出入りしているものに注意をむけるとこんな感じに連環して型の取得までつながっていくのではないかと思ったんです。(い組 M)


継承者問題はありそうですね。でも、クイックに見につくものでもないと思いますが、もしクイックに継承者を作りたい!と思う方が居れば、それだけ切羽詰まっているという状況なのかもしれませんね。(ろ組 M)


即実践は大きいでしょうね~。忘れているものを取り戻したい感じのような。始めに連想をあげましたが、関係ありますかね。 その道のプロに必要な編集講座。不足はなんでしょう??(は組 A)


私も案2が良いかと思います。最初は、絞った方がやり易い?と思いましたが、複数の伝統的な芸道・武道が交わることで、共通項や新たな発想にも繋がるかと思います。これって、編集学校の教室と似てますよね。教室の学衆は、年代・経験値・職業などが異なるからこそ「共読」が生きてくるのだと思います。(に組 M)


求道者たちの表出と言い換えてみます。このロールの特徴は伏せがとてつもなく多く、容易に言語化しない。そこで、開け伏せの見直しが守38番を通してできるのがニーズで見出せませんか。まずは開け伏せを無意識に行うエディティングモデルのクセに自覚してもらうことなどが思い浮かびました。(ほ組 Y)

 

誰かにとって真を突いたつもりの言葉は、別の誰かにとっては遠くから届く「メタファー」性を帯びた言葉となる。そんな広義の「メタファー」から新たな意味を受け取る方法を、入伝生たちは既に手にしている。それは「花伝式目」において《受容》として記されている。

 

「比喩」(metaphor)は、ある事例をスライドしながら(ずらしながら)別の事柄に置き換えて考えることを可能にしてくれる。そうとうに強力な道具だ。ぼくはそのような比喩(メタファー)の発展と連鎖を「連想」とか「連想的編集力」とか「アナロジカル・シンキング」と呼んできた。

1540夜 『想像力を触発する教育』 キエラン・イーガン − 松岡正剛の千夜千冊

 

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「言葉」はときに独り言のようにキャンプファイヤーの火にくべられていく。燃え尽きたようにみえても消えてはいない。炎となり、隣の人の頬を照らす。煤となり、遠くの誰かの肌を汚す。誰かの記憶となり、いつかどこかで蘇る。

 

入伝生たちは、発した「言葉」が変容し遠くへ届けられることを恐れない。入伝生たちは、変質した「言葉」を読み返らせる(蘇らせる)ことを諦めない。それは「花伝式目」において《エディティング・モデルの交換》として記されている。

 

メタファーの語源は「メタ(むこうに)+ファー(転じる)」だ。私たちは、言葉が転じたキャンプファイヤーに心を焦がし、きっと《メタファーの交換》をしている。

 

文・アイキャッチデザイン 阿久津健(花伝師範)

 

 

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コメント

1~3件/3件

若林牧子

2025-07-02

 連想をひろげて、こちらのキャビアはどうだろう?その名も『フィンガーライム』という柑橘。別名『キャ
ビアライム』ともいう。詰まっているのは見立てだけじゃない。キャビアのようなさじょう(果肉のつぶつぶ)もだ。外皮を指でぐっと押すと、にょろにょろと面白いように出てくる。
山椒と見紛うほどの芳香に驚く。スパークリングに浮かべると、まるで宇宙に散った綺羅星のよう。

川邊透

2025-07-01

発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。

川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。