飲む葡萄が色づきはじめた。神楽鈴のようにシャンシャンと音を立てるように賑やかなメルロー種の一群。収穫後は樽やタンクの中でプツプツと響く静かな発酵の合唱。やがてグラスにトクトクと注がれる日を待つ。音に誘われ、想像は無限、余韻を味わう。

達成感や無力感、労いや悔い、希望や不安が、「言葉」となってはすぐに炎に包まれる。2022年12月18日の夜。「指南編集トレーニングキャンプ」のラストプログラムである「キャンプファイヤー」も、これまでの演習と同じく「言葉」だけで行われた。
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その炎に思い出す。筆者が[守]の学衆として稽古を終えたばかりのことだ。勧学会に交わし合いの場を設えた師範代は、小さな火を起こすと「色んな言葉をくべましょう」と誘った。その言い回しを気に入った私は、「ああ、イシス編集学校はメタファーの学校なのだ」と、どこか合点したものだった。その感覚は、5年経った今も変わらず残っている。
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2022年12月17日、18日と2日間を駆け抜けた花伝所のキャンプでは、実戦指南に加え、[守]38題をリミックスする翻案編集のお題が課された。時間的制約の中でのテキストだけの不自由なコミュニケーションに、入伝生のネガティブ・ケイパビリティも試されている。
言葉は期待したそのままの意味では届かない。思考を100%共有することはできない。私たちはいつも誤解し、誤配し、誤読する。しかしだからこそ、他者の言葉を引き受けることで、思わぬ発見の果実を手にすることができる。
わかりにくくてすみませんね…。そうそう、各象限で移りながらなんですが、その時に世界と自分に出入りしているものに注意をむけるとこんな感じに連環して型の取得までつながっていくのではないかと思ったんです。(い組 M)
継承者問題はありそうですね。でも、クイックに見につくものでもないと思いますが、もしクイックに継承者を作りたい!と思う方が居れば、それだけ切羽詰まっているという状況なのかもしれませんね。(ろ組 M)
即実践は大きいでしょうね~。忘れているものを取り戻したい感じのような。始めに連想をあげましたが、関係ありますかね。 その道のプロに必要な編集講座。不足はなんでしょう??(は組 A)
私も案2が良いかと思います。最初は、絞った方がやり易い?と思いましたが、複数の伝統的な芸道・武道が交わることで、共通項や新たな発想にも繋がるかと思います。これって、編集学校の教室と似てますよね。教室の学衆は、年代・経験値・職業などが異なるからこそ「共読」が生きてくるのだと思います。(に組 M)
求道者たちの表出と言い換えてみます。このロールの特徴は伏せがとてつもなく多く、容易に言語化しない。そこで、開け伏せの見直しが守38番を通してできるのがニーズで見出せませんか。まずは開け伏せを無意識に行うエディティングモデルのクセに自覚してもらうことなどが思い浮かびました。(ほ組 Y)
誰かにとって真を突いたつもりの言葉は、別の誰かにとっては遠くから届く「メタファー」性を帯びた言葉となる。そんな広義の「メタファー」から新たな意味を受け取る方法を、入伝生たちは既に手にしている。それは「花伝式目」において《受容》として記されている。
「比喩」(metaphor)は、ある事例をスライドしながら(ずらしながら)別の事柄に置き換えて考えることを可能にしてくれる。そうとうに強力な道具だ。ぼくはそのような比喩(メタファー)の発展と連鎖を「連想」とか「連想的編集力」とか「アナロジカル・シンキング」と呼んできた。
1540夜 『想像力を触発する教育』 キエラン・イーガン − 松岡正剛の千夜千冊
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「言葉」はときに独り言のようにキャンプファイヤーの火にくべられていく。燃え尽きたようにみえても消えてはいない。炎となり、隣の人の頬を照らす。煤となり、遠くの誰かの肌を汚す。誰かの記憶となり、いつかどこかで蘇る。
入伝生たちは、発した「言葉」が変容し遠くへ届けられることを恐れない。入伝生たちは、変質した「言葉」を読み返らせる(蘇らせる)ことを諦めない。それは「花伝式目」において《エディティング・モデルの交換》として記されている。
メタファーの語源は「メタ(むこうに)+ファー(転じる)」だ。私たちは、言葉が転じたキャンプファイヤーに心を焦がし、きっと《メタファーの交換》をしている。
文・アイキャッチデザイン 阿久津健(花伝師範)
【第38期[ISIS花伝所]関連記事】
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松岡校長メッセージ「イシスが『稽古』である理由」【38[花]入伝式】
イシス編集学校 [花伝]チーム
編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。
8週間で式目を終える密なる花伝所。43[花]の入伝生は、編集を加速させ、最後の図解ワークの課題まで走り抜けた。外部の情報を取り込み、世界の見方を変え自己へも編集をかけてきた彼らはいま、この先に続く編集道を前に悩み、立ち […]
発掘!「アブダクション」――当期師範の過去記事レビュー#04
膨大な記事の中から、イシス編集学校の目利きである当期の師範が「宝物」を発掘し、みなさんにお届けする過去記事レビュー。4回目のテーマは、編集学校の骨法「アブダクション」。この推論の方法をさてどうヨミトキ、何に見い出すか。 […]
募集!【8/23(土) 花伝所・エディットツアー】AIにないものとは? センシングを磨く超編集術
「わかること」だけが判断の基準になりつつある現代に違和感をもっている人は少なくありません。「わからないこと」の複雑性を受容しながら、一つ一つの事象を知覚して言葉を選び、巧みに連ねていくこと。言い換えれば、関係性の発見こそ […]
Break by itself. 自分の殻を内側から壊す。これが破れだ。破るとは決意するということだ。 6月28日、[花]キャンプでの「ハイパー茶会プラン」のグループワークが始まった。開幕して38分後、道場 […]
花伝所のキャンプに地図やガイドは用意されていない。あるのは与件のみ。 既成概念に捉われず多様な触発を引き起こし、よくよく練られた逸脱に向かうカマエが重視される。 43[花]のクライマックスは、2日間にわたる […]
コメント
1~3件/3件
2025-08-16
飲む葡萄が色づきはじめた。神楽鈴のようにシャンシャンと音を立てるように賑やかなメルロー種の一群。収穫後は樽やタンクの中でプツプツと響く静かな発酵の合唱。やがてグラスにトクトクと注がれる日を待つ。音に誘われ、想像は無限、余韻を味わう。
2025-08-14
戦争を語るのはたしかにムズイ。LEGEND50の作家では、水木しげる、松本零士、かわぐちかいじ、安彦良和などが戦争をガッツリ語った作品を描いていた。
しかしマンガならではのやり方で、意外な角度から戦争を語った作品がある。
いしいひさいち『鏡の国の戦争』
戦争マンガの最極北にして最高峰。しかもそれがギャグマンガなのである。いしいひさいち恐るべし。
2025-08-12
超大型巨人に変態したり、背中に千夜をしょってみたり、菩薩になってアルカイックスマイルを決めてみたり。
たくさんのあなたが一千万の涼風になって吹きわたる。お釈迦さまやプラトンや、世阿弥たちと肩組みながら。