発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。

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九州新幹線の開通、大型駅ビルの開業など、急ピッチで再開発が進む熊本駅。その周辺は官衙跡に推定される大型建物群などを含む、古代~近世にかけての遺跡の一大包蔵地でもある。ここから路面電車に乗れば繁華街へ向かい、周遊バス「城めぐりん」に乗れば熊本城や城下町で途中下車しながら、気軽に観光を楽しむことができる。
坪井川にかかる祇園橋を渡り、左に曲がると、熊本城下町の古町地区へ。現在「細工町通り」と呼ばれるこの通りには数多くの寺が配され、商人町として栄えた。現在もバナナ・鰹節・こんにゃくなどを扱う一風変わった専門店が軒を連ねる。
幅50㎝の狭い参道の向こうにあるのは、白梅天満宮。れっきとした神社である。かつては近隣の寺の境内にあったが、明治元年の神仏分離令によって現在地に移されたという。
石造と鉄筋、新旧二つの橋が併存する明八橋を渡れば、ここからは近世に入って整備された新町地区である。菓子・玩具などを扱う店が多く、現在ではあえて古民家風にリノベーションされたカフェや八百屋も町並みの名物となっている。
長崎次郎書店は、熊本が九州の政治経済の中心地として最も華やいだ、明治時代初期の創業。現在の建物は保岡勝也の設計によるもので、大正13年に建てられた。国の登録有形文化財に指定されている。二階にはレトロな風情の「長崎次郎喫茶室」もある。
店内は広くはないが、そのぶん選書には凝縮された個性が光る。単行本も一通りのジャンルが揃い、特に人文・文芸・芸術に力を入れているという。
レジの横には「植物」をテーマにした、ひときわ涼やかなコーナーが設けられていた。植物学者・牧野富太郎の著書にちなみ、高知の山野に自生した植物で作られたハーブティーなども並ぶ。
千夜千冊エディションフェア棚は、同店で特に人気の高い、郷土関連書籍の前に作っていただいた。宮崎滔天や夏目漱石、石牟礼道子らの名が見える。
千夜千冊エディションフェアは、重厚感のある木のテーブルになんとすべての本を平置き!の贅沢さ。中央に立てられたポスターパネルが異彩を放ち、もっこす気質な熊本県民を“知祭り”へと誘う。
エディションフェア担当・児玉真也さん一推しのエディションは、『方法文学』。「これは目次をめくるだけでも楽しくて…」と目を細める。「特に『北回帰線』には思い入れがあります。初めて読んだときの衝撃が忘れられません」。
前出のボタニカル棚を作ったスタッフ、荒金有紀代さんにも一冊選んでいただいた。「『芸と道』。「自分を律して一つの道を究めた人の言葉は、読むと自分も奮起できそう」というリコメンドに、児玉さんも「それだと思いました」とにっこり。
熊本エディションフェアを担当したのは、41守・44破で師範代を務めた吉田麻子。子供の頃から慣れ親しんだ長崎次郎書店、編集学校九州支所「九天玄氣組」とともに、地域を元気にしていきたい。
いつ行っても欲しい本が数冊は見つかる長崎次郎書店の書棚の秘密を聞いてみたところ、経営母体である長崎書店(熊本市下通)の社長・長﨑健一氏の社員教育方針にあるとのこと。書店スタッフの成長のため、全国の様々な書店や出版社に出張させてくれるのだそう。多くの実例に触れることで得たヒントやアイデアが、新鮮で魅力的な棚づくりに活かされているのだ。
今回千夜千冊エディションを担当してくださったスタッフの児玉さんは、平成26年の大規模リニューアル当初から長崎次郎書店の書棚作りに携わってきた。「詩集が好きなんです。短歌などと合わせて二段を充てるというのは大きな書店さんでもなかなかないと思いますが、もっと増やしたくて」。
千夜千冊エディションの一冊目に出た、『本から本へ』の作り込まれたブックデザインには驚いたという。「平置きのレイアウトで、これを左手前に置くことはすぐに決まりました。あとは近そうなジャンルを寄せていった感じです。ほかに、松岡さんの書籍では『多読術』が人気です」とのこと。
文・写真:吉田麻子
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2025-07-01
発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。
2025-06-30
エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。
2025-06-28
ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。