ジャイアン問答【対話篇】――46[守]新師範代登板記 ♯16

2021/03/05(金)20:00
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 卒門後も、角道ジャイアン教室のうねりが止まらない。現在は、「連絡網の名称決め」が、稽古さながらに熱を帯びている。たかが名称決め、と思うなかれ。こういう遊びに知力と時間を使う角道ーズをジャイアンは誇らしく思う。やはり「編集は遊びから生まれる」のだ。

 

 遊びついでに、卒門した9名の学衆に「遊刊エディストのインタビューを受けてみない?」と声をかけてみたところ、7名から手が挙がった。これから守の受講を考えているあなたへ、かつて学衆だったあなたへ、46守を共に駆け抜けた仲間へ、角道ーズたちの“声”を2回に分けてお届けしたい。 もちろんインタビュアーは、ジャイアン(G)である。

 

◆「編集は対話から生まれる」篇

 

 角道ジャイアン教室が一気に動き出したのは、開講から3日目に、この「問い」が教室に放り込まれてからだ。
正直、こんな子供じみた問題、何の訓練になるんだと、少し怒りを感じながらやりました
 発言の主は、松岡竜大さん。プロのギター奏者であり、ギターの先生でもある。千夜千冊は400夜近く読み、松岡校長の著作の読書量も教室一だ。

 

G :あの問いは最後まで読むと、「これからがんばろう」という宣言とも取れるけど、師範代としては「さあ、どうしよう」と思いましたね。
松岡:最初のお題でコップがどうのといわれて、これってどういう意味なんだろうと思ったんです。ここには学びに来ているので、正直に疑問に思ったことを言ってみようと。で、「お前は間違ってる」と指摘されたら、「すみません」と謝まればいい。でも、はぐらかすわけでもなく、無視するわけでもなく、ちゃんと受け止めて答えてくれた。嬉しかったですね。
G :「言葉にすれば場が動く」という教室のウェルカムメッセージに掲げた言葉を体現してくれました。自分の中では稽古を終えて何か変わりました?
松岡:最初は大量のメールに慣れなかったんですが、そのうちに情報を読むスピードが速くなりました。それに、誰かと話している時に相手の台詞を分類・整理する癖がつき、結果、ツッコミのバリエーションが増えました(笑)。この次ですか? 今は早く破や離に進みたいと思っています。

▲松岡竜大さんはギター教室で20~30人の生徒を教える。

 

 松岡さんの渾身の「問い」にどう答えるか。
 ジャイアンは自分の学衆時代を繙いた。実はジャイアンも最初からノリノリで回答していたわけではない。その時、併走する仲間の楽しそうに稽古をする姿を見て、「楽しんだもん勝ち」なんだと気づいた。
 だからこそ、角道ジャイアン教室では一緒に楽しみたい。楽しんでほしい。松岡さんから発せられた「問い」に感じ、応じたことで、教室に「楽しむ」というカマエが広がったように思う。

 

 次なる激震は2週間後だ。
 情報を「わける」稽古。008番「豆腐で役者を分ける」の回答例の中で、絹ごし豆腐や高野豆腐など、豆腐を分類モデルにして女優を分けているのだが、これは「おかしいのでは?」と学衆から言挙げされたのだ。
 お題に対し、物言いをつけるのだ。教室の空気も乱すかも知れない。大人しく黙っていればいいんじゃないか。ひと晩考えた挙げ句、声を挙げた。
 それもむべなるかな。言挙げしたのは、由水南さん。ニューヨーク在住のブロードウェイ俳優にしてYUプロジェクト主宰者だ。由水さんは自分の思いを表現し続けて今の位置にいる。

 

G :でも、「お題がおかしい」と言っていいのか、悩まれたでしょ?
由水:悩みました! でも、周りを気にして黙って……という社会が嫌でアメリカに出てきたのに、これは絶対に妥協できないと思って。
G :声を挙げてもらって良かったです、ほんと。「お題が絶対だ」という考え方は元からないと思うし、 実際適宜更新されてはいるんです。学匠もすぐに反応してくれて、来期からのお題の事例変更を約束してくれました。由水さんの勇気ある言挙げで、イシスが動いちゃいましたね(笑)
由水:ほんとですか! 自分を「繕う」のが嫌で、繕わなくてもいい場所、もっというと「みっともない自分」を出してもそれでいいよと認められるカルチャーの中にいたのに、実はイシスに入って、日本にいた時の「繕う自分」の感覚に戻っていたんです。いつも「出る杭」だったので、またそうなっていないか気にしてたり。でもこれだけは、と思って正直に声に出してみましたが、変わるきっかけになったのなら嬉しいです。
G :教室が始まった当初は、「ちょっと遠慮があるかな?」と実は心配していました。
由水:文字だけで交わすというのに慣れなくて、その言葉をどんな思いで発しているのか、受け止めているのかも掴めなかった。12月の汁講で皆さんにお目にかかって、安心感、信頼感が一気に高まって……
G :それからは回答でも跳びはねてましたね(笑) 「型」はどうでした? 「型にはまる」とか「ルール」とか、好きじゃないですよね?
由水:はい(笑)。でも指南で言われた通り、切り口をソロエることを意識してみたら、表現の仕方が変わったんです。伝えたい情報がより浮き上がってきた。編集稽古をして良かったなと実感してます。

▲由水南さんの好きな言葉。Step out of your comfort zone.

 

 

 由水さんの言挙げに、真っ先に反応した学衆がいる。今野知さんだ。ファーストペンギンを通り越して、角道ーズの「マッハペンギン」の異名を持つ。
 今野さんは、[稽古008の彩(再)振返り]と題して、<勧学会>に投稿。「歴史上の人物」を豆腐で分けるミニ稽古をしてみた、という出だしで、卑弥呼などを女性有名人を分類したところ、「アンネ・フランクにやりにくさを感じた」とある。「アンネの持つ歴史的背景が豆腐を拒絶させたのでは?」と自身に問いを投げかける今野さん。お題や回答例の背景、自身の背景をどう重ね合わせ、どう編集するか。こうした「問い」に変換することで、由水さんの言挙げを教室で共有すべき編集的問いに昇華させてみせた。
 今野さんにそのことを問うと、「敏感なのかもしれません」という答えが返ってきた。

 

G :敏感というか、教室のことを考えて振る舞ってくださいましたよね? 用法1の半ばからほとんどトップ回答でしたが、今野さんのファーストペンギンっぷりが、教室にいいリズムを作りだしてました。
今野:リズムは意識していました。お題が出る、見たら取りかかる、というリズムです。最初の頃、回答を共読し、共感してブレてしまったんです。でも共読しないのはもったいない。真っ先に回答すれば、後でゆっくり読めますから。
G :今野さんは「表現すること」をすでに仕事にされてますよね。漫画、イラスト、キャラクターデザインなどなどペンネームを使い分けて活動中だとか。そもそもイシスの門をくぐったきっかけは?
今野:物語を書きたい、という夢を叶えるのにどうすればいいか、といろいろ調べるうちにここにたどり着きました。でも稽古をしている途中で、これは言葉や表現の筋トレなんだと気づいたんです。006番の「カブキっぽいこと」の師範代の指南の勢いが面白くて、「こんな表現もあるのか」と思ったのも大きかったですね。それからは今までの自分の筋肉の動きや姿勢を確認しながら、筋肉量を増やすイメージで稽古していました。回答=スクワットです。筋トレは辛くないか? いえ、回答の結果には一切こだわらず、稽古そのものを楽しんでました。

▲今野知さんは、夫婦で守に参加。破にも夫婦で進む。

 

 松岡さん、由水さん、今野さん。この3人は強力なインフルエンサーだった(3人は46破に揃って進む)。だが彼らだけで、対話は生まれない。深谷もと佳花目付の教えをそのまま記すなら、「言語密度が高い教室には、“水を運ぶ人”が必ずいる」。 「水を運ぶ人」とは、元サッカー日本代表監督のイビチャ・オシムが好んで使った言葉だ。チームのために縦横無尽に動き回り、献身的に動く人のことをこう呼んだ。「つなぐ人」と言い換えてもいい。
 角道ジャイアン教室には複数の「水を運ぶ人」がいたのだが、そのうちのひとりが内野絹子さんだ。昨年初頭に独立し、今は個人やチームでweb制作などを手掛ける。仕事や趣味でカメラも操る長崎人だ。

 

G :覚えてますか? 教室で最初に指南感想をくれたのも内野さんだし、「回答の最初にみなさんの一言があるととても身近に感じます」と挨拶(マクラ)を促してくれたのも内野さんでした。マクラを利用して、教室の仲間に何通も、「小さな手紙」を届けてくれましたね。
内野:皆さんの回答が、とにかく新鮮だったんです。今までの人生が出ているというか。私の中にはないものでした。もっと知りたいと思い、まず共通点を探すところから始めようと思ったんです。
G :それが「小さな手紙」だったのですね。教室の仲間からも好評でした。
内野:私、ジャイアン教室の皆さんに会えたこと自体が衝撃だったんです。大人になってから、まさかこんな“青春みたいな場”を体験できるとは思ってなくて(笑) 趣味の友だちなら大人になってからもできますが、イシスは違いますよね? 趣味も年齢もバラバラで、それぞれが不足を抱えて集っているというか。そういう仲間と稽古を通じて交わしあうことが楽しかったんです。
G :変化はありました?
内野:日常がガラッと変わりました。本を読み終えたあと「自分ならどんなタイトルにするだろう」と考えてみたり。「仮留めで次に進む」という感覚も身につきました。
G :内野さんなら、どんな人にイシスを勧めます?
内野:何か違うものを求めている人。不足を感じている人。そういう人たちに、「ここに来ると、ものの見方がかわるきっかけを得られますよ」と教えてあげたいですね。

▲内野絹子さんは、角道ーズの歌姫だ。

 

 

 不足を感じている人――。そう、イシスの「編集稽古の心構え」の3つめは、「編集は不足から生まれる」。次回は、学衆インタビュー「編集は不足から生まれる」篇をお届けしたい。

 

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    編集的先達:黒岩涙香。「松岡正剛と同じ土俵に立つ」と宣言。花伝所では常に先頭を走り続け、感門では代表挨拶。師範代をしながら同時にエディストという前代未聞のプロライター。ISISをさらに複雑系にする異端児。

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