【このエディションフェアがすごい!番外編】ジュンク堂書店難波店(大阪市)

2021/08/13(金)15:38
img

 『本から本へ』から共感した言葉を抜き出したパネルを手づくりし、大阪で先陣を切って千夜千冊エディション「知祭り」フェアを開催したジュンク堂書店難波店の福嶋聡(あきら)店長。2時間近い取材に答えてくださったが、その思いは編集工学と重なる部分も多い。福嶋店長の言葉を中心に、ジュンク堂書店難波店第2弾を番外編としてお届けする。

『本から本へ』を手に、セイゴオポスターと向き合う福嶋聡店長

 

 「本はライフライン。不要不急の商品ではない」。コロナ禍で繰り返される緊急事態宣言。多くの店が休業や短縮営業を余儀なくされるなか、時短とはいえ休むことなく営業を続けた店舗が大阪にあった。ミナミの真ん中に位置するジュンク堂書店難波店だ。福嶋店長は笑顔で話す。「もともと本屋に来て、大声で話す人はいませんからね」。たしかに客は静かに本と対面し、話してもぼそぼそ小声。書店それぞれに事情はあるが、感染対策に向いた場所といえるのかもしれない。

 

 「お客さんも来てくださったんですよ」。話を聞くと来てくれたどころではない。本を求める列は、レジから書棚に沿って蛇行するように続き、ディスタンスを取りながら200メートルを超えたという。子供のためのドリルを、ふだん読めない本を、好きな作家をたっぷりと。緊急事態宣言下でも、いや、緊急事態宣言下だから人は本を求めて静かに並んだという。

 

 「本はライフライン」という言葉が実感を持って迫ってくる。

 

フェアコーナーを見下ろすようなセイゴオ「知祭り」ポスター

 

 福嶋店長は、書店に「異次元の時空間を創発」(『パンデミック下の書店と教室』より)する活動を続けている。店内で開くトークイベントもその一つ。即席ステージに椅子を並べ、書き手と読み手の接点をつくる。イベント目当てで集まる人もいれば、知らずにやってきたお客が突然、鋭い質問を投げかけることもあるという。そんな「事件」もライブの醍醐味。予定調和では終わらない。異質が混じり合って創発空間は生まれるのだ。

 

神戸大学の小笠原博毅教授との往復書簡で構成された著書『パンデミック下の書店と教室』

 

 「お客さんに飽きないこと」―書店員を続けてきた一番の理由を、こう話す。それは、書店員にとって大切なことでもある。クレームを受けることもある。知らないことを尋ねられることもある。「それを面白がることができるようになると」楽しくなるそうだ。「教えてもらうつもりで話し、怒られ慣れたらいいんです。お客が怒るのはしょうがない。でも自分は決して怒らないことです」。
 お互いが自分を正しいと主張し、話を聞かなくなると創発は起こらない。対話があってこそだ。

 

 ヘイト本も同様だと言う。「ヘイト本に賛同はできない。が、自分が正しいと思いこむと対話が成立しなくなる。対話しているうちに可能なことが出てくるのではないかと思うんです
 気に入らないからといって店頭から排除しては、相手と同じ排除なのではないか。だから反ヘイト本フェアを開いたときも、あえてヘイト本を並べたという。まずは読み、相手の言い分を聞き、考えることが大事なのだ。

 

 言葉と言葉、本と本がぶつかり合う書店を福嶋店長は「言論のアリーナ」と呼ぶ。文化の闘技場。異見がぶつかりあって、知は動き出し、創発する空間が生まれる。書店は本来そういう場であるべきなのだろう。

 

2時間近い取材にも福嶋店長の熱弁は止まらない

 

 そんな福嶋店長だが、「若い頃に古典をもっと読んでいれば」と後悔する。「先端の現代思想を読んでも、古典を読んでいないと分からないことがある。時間がある学生時代にもっと読んでおけばよかった」。学生時代に教えを受けた先生にはこう言われたという。「高く伸びるためには土台を広げること」だと。


 本から本へと続いてきたライフライン。古典を読みなさい。福嶋店長から若い読者へのメッセージだと受け取った。

 

『本から本へ』をめくる福嶋店長

 

 福嶋店長と話すと、書店員としての矜持を感じ、書店がとても編集的で魅力的な場であることを実感できる。ジュンク堂書店難波店の「知祭り」フェアは延長して8月20日まで開催している。近くの方はぜひ、お出かけください。

 

 

(写真撮影は木藤良沢)

 

Back Number

【このエディションフェアがすごい!番外編】ジュンク堂書店難波店(大阪市)

【このエディションフェアがすごい!33】丸善 日本橋店

【このエディションフェアがすごい!32】柳正堂書店 オギノバリオ店、甲府昭和イトーヨーカドー店(山梨県)

【このエディションフェアがすごい!31】田村書店 千里中央店(大阪府豊中市)

【このエディションフェアがすごい!30】紀伊國屋書店新宿本店

【このエディションフェアがすごい!29】ジュンク堂書店郡山店

【このエディションフェアがすごい!28】ジュンク堂書店三宮店(神戸市)②

【このエディションフェアがすごい!27】丸善仙台アエル店

【このエディションフェアがすごい!26】敷島書房(山梨県甲斐市)

【このエディションフェアがすごい!25】ジュンク堂書店大阪本店

【このエディションフェアがすごい!24】ch.books(長野市)

【このエディションフェアがすごい!23】丸善京都本店②

【このエディションフェアがすごい!22】ジュンク堂書店吉祥寺店(武蔵野市)

【このエディションフェアがすごい!21】平安堂長野店

【このエディションフェアがすごい!20】丸善広島店

【このエディションフェアがすごい!19】丸善津田沼店(千葉県習志野市)

【このエディションフェアがすごい!18】ジュンク堂書店三宮店(神戸市)

【このエディションフェアがすごい!17】ジュンク堂書店大分店

【このエディションフェアがすごい!16】ジュンク堂書店難波店(大阪市)

【このエディションフェアがすごい!15】ジュンク堂書店三宮駅前店(神戸市)

【このエディションフェアがすごい!14】長崎次郎書店(熊本市)

【このエディションフェアがすごい!13】スワロー亭(長野県小布施町)

【このエディションフェアがすごい!12】丸善京都本店

【このエディションフェアがすごい!11】丸善名古屋本店

【このエディションフェアがすごい!10】ジュンク堂書店名古屋店

【このエディションフェアがすごい!09】ジュンク堂書店鹿児島店

【このエディションフェアがすごい!08】丸善松本店

【このエディションフェアがすごい!07】ブックセンタークエスト小倉本店

【このエディションフェアがすごい!06】丸善博多店

【このエディションフェアがすごい!05】りーぶる金海堂クロスモール店(宮崎市)

【このエディションフェアがすごい!04】喜久屋書店小倉店

【このエディションフェアがすごい!03】ジュンク堂書店池袋本店

【このエディションフェアがすごい!02】ジュンク堂書店福岡店

【このエディションフェアがすごい!01】ブックファースト新宿店

 

千夜千冊エディション20冊突破記念フェア開催中!

 最新開催店舗情報はこちらへ▼

 EVENT 千夜千冊エディション20冊突破記念フェア開催店舗情報(8月)


  • 景山和浩

    編集的先達:井上ひさし。日刊スポーツ記者。用意と卒意、機をみた絶妙の助言、安定した活動は師範の師範として手本になっている。その柔和な性格から決して怒らない師範とも言われる。

  • フリーザであり、胡蝶しのぶ それが[守]師範だ

    『ドラゴンボール』でいえばフリーザ。『鬼滅の刃』でいえば胡蝶しのぶ。師範の尾島可奈子を見立てで学衆に紹介したのは2人の師範代だ。破壊と再生。視野の広い編集力を持つ尾島は、たしかに両方を兼ね備えている。     […]

  • 「フレッシュ」に50[守]ボードが動き出した

    「なぜかフレッシュ」。画面に並ぶ顔触れを見て林頭の吉村堅樹は言った。2022年9月7日。49[守]クローズが迫り、感門之盟の準備が佳境を迎える夜、50[守]師範陣がZoomに集まった。全員がそろうのは初めて。ロールチェ […]

  • サプライズは2度やってきた~49[守]かく書く然り教室汁講

    正真正銘のサプライズだった。7月27日に行われた49[守]かく書く然り教室(三津田恵子師範代)汁講でのことだ。2時間半にわたる編集ワークとイシス語りに「異次元のような楽しさ」の声も聞かれた。しかし、この夜を「異次元」に […]

  • ポケモン・たかじん・走る女に脱ぐ男―48[守]師範代座談会

    伝習座は言葉の矢が降ってくる。用法・指南語り、NOW、編集道。師範の愛情と方法と熱意で作られた矢だ。ずばり命中すれば、師範代は変わりたくてムズムズする。11月27日の48[守]第2回伝習座、師範代にはどんな矢が刺さった […]

  • 【このエディションフェアがすごい!16】ジュンク堂書店 難波店(大阪市)

    「千夜千冊エディション 知祭り」の火は大阪でも熱く燃え始めている。先陣を切ったのはジュンク堂書店難波店だ。  地下鉄とJRが直結し、ホテルが入る高層ビルの3階。1フロア約1100坪の売り場を持つ難波店は、大阪有数の繁華 […]